奥田庵

楽しんで書ける場所が欲しいなって、ここにひっそりと、僕の遊び場を作った感じです。小説的体調管理。自由。

漠然。

 

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炎上騒ぎでも起きたかのように、唐突に予約は減り、

キャンセル対応に追われている小さなレストラン。

 

今まで、忙しかった。

田舎に引っ越してきて、小さなお店を夫婦二人で始めた。

それほど忙しくなくていいから、のんびりと自分たちのペースでやっていこうと、そんな感じだった。

 

「誰も来なかったらどうする?」

「まあ、卵ぐらいしかなくても、俺がうまいものに変えてやるからさ。食うには困らないさ」

 

なんて、言っていた。

店主は、特に有名な料理人だったわけではないけれど、妻はいつもとても褒めてくれた。

最初はあまりお客は来なかったけれど、それなりに楽しかった。

常連が出来、SNSとかでも紹介されるようになり、

ローカルテレビが取材に来たりもした。

 

そして気が付けば、予約でいっぱいになり、毎日忙しかった。

妻は、接客に追われ、とてもよく働いてくれたけれど、疲れているのは見て分かった。

 

「予約の数減らそうか?」

「でも、みんなあなたの料理を気に入ってくれる人ばかりだから。私は大丈夫だから」

 

二人の会話は減り、疲れは溜まり、そして不器用だった。

妻を幸せにしたい店主と、

多くの人に店主を認めてもらいたい妻。

 

店主は何かしらの違和感を感じ、潮時を考え始めていたころ、

 

世界の流れが一気に変わった。

 

ミサイルが落ち、原発が壊れ、人々が外へ出ることを控えたのだ。

 

その日から、キャンセル対応と、予約しても来ないお客ばかり続いた。

だけど店主は、少しホッとしていた。

 

二人は、最後の予約客をもてなし終えると、店を閉め、

しばらく休業することに決めた。

 

「あなたのせいじゃないから」と、妻は言った。

店主は、

「いや、俺のせいさ」と言った。

 

順調にいくこと、それに対し、責任をとろうとすること、そこから少しずつ、何かがズレていくことに気がついているのだけれど、その違和感に対して、うまく説明がつけられないまま、時間が流れていくこと。漠然とした怯えがあり、どこかで決断をしないとなと思いつつ、流されて行くこと。

ある種のうまくいかない時は、ある種の弱さを助けることもある。

 

店主は、その日の夜オムレツを作り、二人、ワインで乾杯した。

簡単な打ち上げ。

 

「お疲れ様」

「お疲れ様」

 

オムレツを食べ、妻が笑った。

「美味しいね」

 

店主は少しホッとした。

 

ここから、と密かに思っていた。