奥田庵

楽しんで書ける場所が欲しいなって、ここにひっそりと、僕の遊び場を作った感じです。小説的体調管理。自由。

一度だけ。

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淳一は小学生の頃、一度だけ誕生日会を開いたことがある。

なんでそんなことをしたのかは忘れてしまったけれど、

実際に、やってみて、とても恥ずかしかったのを凄く覚えている。

 

母親の手作りの料理に、手作りのケーキ。

畳の部屋に、狭い家。

 

手作りというのが、まず、恥ずかしかった。

母親なりの豪華な料理なのだけれど、どこか華やかさに欠けている気がして、そう考え始めると、ソワソワが止まらなくなった。

 

特に流れが決まっているわけでもなかったので、

何をしていいのか分からなくなった。

 

食べて、だけど母親が沢山作るので、食べ残しが多かった。

友達三人ぐらいだったか、漫画とか、手紙とかもらった。

何していいかわからなくなって、テレビ見て、ゲームして、

それでも落ち着かなくて、母親からもらった図書券を持って、

みんなで本屋に行って、

 

「好きな漫画一冊いいよ」

 

と淳一は言った。

それぞれに図書券で漫画一冊プレゼントして、お別れした。

 

そして、やっと一人になった時に、淳一は酷く落ち込んだ。

誕生日会の何もかもが苦しかったのだ。

 

そして、一生懸命料理を作ってくれた母親に申し訳ない気持ちになっていた。こういうのじゃないって思い続けている自分が嫌だった。

 

母親にお礼も言えず、一人部屋で落ち込んでいると、参加した友達が一人戻ってきた。

 

「どうしたの?」

「人の誕生会行って、プレゼントもらってくるなってママに言われた」

そう言って、漫画を一冊返された。

 

淳一は、それから一度も誕生会は開かなかった。

 

もう、数十年経つのだけれど、いまだに淳一は、その日のことを思い出すと、少しだけ悲しい気持ちになる。

 

そして「そっちはどう?」と、意味のないメールを母親に送ったりしている。