奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十七章・その②

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洞窟の中は真っ暗闇だった。

小人と来たときに比べ、明るさもなければ幻想的でもなく、そこにあるのは紛れもなく現実的な洞窟だった。外よりヒンヤリとしている。足場はあまりよくない。歩くたびにガシャリと岩と砂利が擦れる音がした。

僕は闇の中に手を伸ばし、歩き続ける。

必ず、この先に湖があるはずだ。漠然とした確信の中、闇へ手を伸ばし続ける恐怖。と、そのとき、

「うわっ」

あるはずだと思って、歩を進めていた足元が宙を捉え、その勢いで一気に足が沈んだ。そして深い穴へ落ちるように体全体が沈むと、一気に転がり落ちた。岩が崩れる音がして、僕はお尻から地面に叩き落された。

「え……?」

体中に激痛が走る。そして、ろくでもない現実に呆然とした。

湖に辿り着くどころか、この暗闇の中、穴の底へ落とされてしまった。漠然とした思いに流され、辿り着いた現実が、暗闇の穴の底。このまま死んでしまうのかと。僕は、体を起こしその穴の深さを探ろうと手を伸ばすが、ジャンプしても地上に届く感じはなく、そこはどこまでも深いように感じる。これは本格的にヤバいかもしれない。僕は全身に力をみなぎらせ、この穴を登りなんとか地上まで這い上がろうと試みる。が、手にする岩が持つたびに崩れ、穴の底へ突き返される。だけど、今はそれ以外やれることはない。僕は何度も何度も這い上がろうと手を伸ばすが、岩は崩れ、掴むことができない。

「ハアハアハアハアハア……」

これはヤバい。このまま穴から抜け出せず、本当に死ぬかもしれない。どうしよう。どうしよう。

穴はずいぶんと広く感じた。両手を左右に伸ばしてもまだ余裕があった。

一瞬、地上の方で小さな光のようなものが見えた気がした。

「え?」

誰かいる? いや、まさか? でももしかしたら小人が? まだそんなこと考えているのか? でも、確かに小さな光が光った気がした。

「すいませーんっ! すいませーんっ!」

僕は暗闇の穴の底から、暗闇の先へ向かい大声をあげてみた。声は洞窟内で響き、空しく吸収された。

 

ふと、足元の石を払いのけるように右手でかくと、その足元の先の地面がとても柔らかいことに気付いた。その土はとても乾いていて、底なしの砂場のように手を深く入れることができた。

「なんだこれ」

感触は生暖かく、とても気持ちが良かった。動揺し、混乱している今の僕を一瞬、癒しのような感覚が包む。僕はそのまま掻きだすように砂を払い、その砂の奥へ奥へと両手を入れていく。僕はそのスムーズに吸い込まれる感覚に引き込まれ、何度もその動作を繰り返す。何度も何度も。

僕はそのうち「どこかへたどり着け」と念じながら、まさしく闇雲に掘り続ける。

しばらくすると砂が途切れた。そして土らしき地面に辿り着いた。

僕は、それを一気に掻きだすと、パラパラと崩れ落ちたような感触があり、土を手で掴み、一心不乱に掘り進めた。

「ハアハアハアハアハア……ん?」

土を掻きだし、先細りとなった穴の奥に明かりのようなものを感じた。

虫眼鏡で太陽の光を当ててあけられたような、隙間から溢れる小さな光。暗闇がほんの少しだけその微弱な光に包まれる。

その微弱な光は暗闇の底にいる今の僕にとってはまさしく奇跡に近い光だった。この光はいったいなんだ?

僕はさらにその光に向かい、土を掘り、左右の壁土を砕き、なんとかしゃがんで入り込めるほどの穴を作った。穴の先に空間がある。どこかへ繋がってる。

屈んで、その穴へとなんとか入り込み、そして抜け出ることができた。

なんだこの空間。真っ暗闇ではない。ほんの少しだけ光が届いている。が、全然足りない。その空間は、六畳ほどのスペースになっていて、視線の先に「なにか」あるように見えるのだけれども、それがなんなのかはっきりと確認できない。

僕は手探りで、空間の広さを感じながら、片隅にある「なにか」を確かめようとゆっくりと近づく。そして、その「なにか」の輪郭がモワッと霞がかったように現れ始めると寒気がした。人? 死体? 歩を進めるたびに、足元で砂利がガシャリと音を立て空間全体に響く。カチャ。

「ん?」

靴先がなにかがあたったような感触、僕は体をよじり、左手を地面に伸ばした。そして、靴先の周りを探ると「あ」なにかある。棒状のなにかが指に触れた。それを掴み、持ち上げると、それは、

「虫取り網……」

虫取り網だった。まさか。でも。

また夢の延長と現実の狭間に迷い込んでいるような混乱が僕を襲う。

僕は虫取り網を両手で持ち、その空間の隅にある「なにか」へと近づく。

心臓が高鳴る。なにかいる。かなり大きな物体。死体かもしれない。いったいどうすればいいんだろう。ガシャリ、ガシャリと砂利が擦れる音が耳に届く。

そして、その物体がすでに僕の目と鼻の先に近づいた。

そこにあったのは、

「僕だ……」

やはり、僕だった。

 

 

 

くらげ

くらげ