奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十四章・その①

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十四

 

青野さんと別れたあと、僕はすぐに瑞希へ電話した。

瑞希の電話は留守電で、僕は「すぐに伝えたいことがあるので、電話をください」とメッセージを入れて電話を切った。

しかし、その日、瑞希からの電話はなかった。

僕は、落ち着かない気持ちをどう処理していいかわからず、戸惑った。

電話のメッセージのなさはどこか、僕自身の存在の曖昧さを露呈しているかのように思われた。僕の言葉が誰かに届くことはあるのだろうか?

インターネットで、クリエイティブメゾンとサンセット会の関わりについて調べてみたが、その情報はどこにも書かれていなかった。それとは別にクリエイティブメゾンの事業内容と、その意義について書かれている文章、参加してどれだけ自分に実りがあったかなどの体験談が異常なほど多く目についた。情報は操作され、歪曲されているのかもしれない。 

クリエイティブメゾンとの関わりについては書かれていなかったけど、サンセット会についての記事や、憶測、噂などはかつての事件の影響か山のように溢れていた。

奨学金や、ボランティア、企業献金や、資金集めの手口、関連企業、現状での被害状況など、追えば追うほど、偶然性を装い囲い込み洗脳し搾取するやり方が巧みで寒気を襲う。

もう、国内のほとんどがサンセット会関連で一般人を何らかの囲い込みをして食い物にしているんじゃないかと疑ってしまう。が、インターネットの記事だけに全てを鵜呑みにできない。

情報を隠すには、削除するか、逆にインチキも含め情報を増やすかの二通りあると聞いたことがある。読むだけで笑ってしまうようなものや、あきらかに嘘だとわかるものも勿論あった。

「ん?」

サンセット会関連企業一覧の記事の中で、一つのマッサージ店が目に留まった。それは、瑞希が職安で見つけ、面接を受けたマッサージ店だった。

ふと、疑念がよぎった。瑞希は、体験農業で出会った女性に誘われてクリエイティブメゾンの説明会に参加すると言っていた。僕は、てっきりその女性が怪しいものだと思っていたが、実は、罠は職安の求人から始まっていたのではないか。

瑞希は、マッサージ店の店主と行った喫茶店で、体験農業のパンフレットを偶然見つけたと言っていた。しかし、それは店主が仕組んだ勧誘の流れで、マッサージ店は勿論、その喫茶店自体、サンセット会関連の店であった可能性すらある。自らで選んだと思っていても、実は仕掛けがある。素直な瑞希は何も気づかずその罠に飛び込んでいったのかもしれない。

 

父さんの言葉がふと耳元で蘇った。

『つまりお前には自分で考えて、自分で判断してほしいって話だな』

受動的になるな。自分で考えて、自分で判断しろ。

僕は「ふむ」と、声を出して頷いた。

 

次の日、バイトへ行く前に電話が鳴った。電話の相手は瑞希ではなかった。

知らない番号からの電話。

「はい、もしもし」

「もしもし、栗田さんのお電話でしょうか?」

「はい、そうです」

「わたくし、五十嵐広告のナグモと言うものなのですが、先日うちの面接に来ていただきありがとうございました。つきましては、栗田さんに弊社で働いていただくことに決定いたしましたのでご連絡させていただきました」

「え、あ、はい」

この前、面接を受けに行った会社からの連絡だった。どうしてあの面接から僕が合格するのかさっぱり理解できなかった。

「つきましては、明後日なのですが、一度出社していただき仕事内容を改めてお話しする時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい、調整すれば大丈夫だと思います。もし、都合がつかなかった場合は改めてこちらから連絡させていただきます」

「それでは、明後日、朝十時にお待ちしおりますので」

「はい、ありがとうございました」

そして電話が切れた。僕は面接に受かるとも思っていなかったので、突然突きつけられた現実に馴染めないでいた。

 

 

不器用なアナログレコードの挑戦

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