奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十三章・その②

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「へー、なるほど、なるほど」

青野さんは真剣な顔をして二、三度頷き、アイスコーヒーを口にした。

「僕も青野さん、職安で見かけたとき、違和感あったんです」

「私が? どんなです?」

「なんていうか、楽しそう。青野さん楽しそうですよね職安でも」

「ええ、楽しいですよ」

青野さんはあっさりと認めた。

「なにが楽しいのですか?」

「私、以前田舎で営業みたいな仕事をしていたんです。自分ではとってもいいものを人に知らせて、それで喜ばれる仕事をしていると思っていたんですね。だけど、そうじゃなかった。その会社で販売していた介護用食品から少ない量の毒性が検出されたんです。数回の利用じゃ特に問題はないけれど、何度も使用していると命を落とす危険があるものなんだそうです。マスコミが騒いで、一時期テレビで何度も取り上げられました。私は営業先に回って頭を下げる日々が続いたのですが、それでまあ、色々参ってしまったんです。どこかで人の役に立つ仕事をしていたと思っていたら、私、知らない間に、誰かを殺してしまっていたかもしれなかったんだって。それに比べたら、今は」

青野さんは深刻なそぶりを見せるでもなく、淡々と話した。

「そうだったんですか」

 

窓の外で、さっきから何度も野菜が入った段ボールを抱えながら走っている青年が歩いて来る人に声をかけては無視されていた。

「たまに見ますよね。ああいう販売している人」

「あれ、ネズミ講みたいに騙されてるパターンがあるんですよね。きっと全部じゃないと思いますけど。私、高齢者と話す機会多かったから、受けた被害や噂なんかで詐欺とかの話や手口、いっぱい聞かされて何気に詳しいんです」

「なにそれ?」

「例えば栗田さん。よく考えて下さい。なんでこんなところで野菜売らないといけないと思いますか?」

「え、売れ残って困ってんじゃないんですか?」

「違います。だいたいがあの上に、くず野菜を安値で大量に買い込んだ業者がいたりして、それを夢追う若者たちを騙して買わせたりしてるんですよ。手口としてはまず、集めた若者に『小さな店を自分がもったと思えばいい』と。独立して、自らで稼いで好きなことをして生きていこうなんて洗脳するんです」

野菜売りの青年は積極的に笑顔で話しかけ、冷やかしで立ち止まった高校生に、一生懸命アピールしていた。

「彼らがそんな悪い人には見えないけどな」

「いや、彼らはどちらかと言えば被害者です。純粋に自分がやりたいことを目指そうと、その第一歩として野菜を売っているんです。ああいう子ほど真面目です。親切な団体に助けを受けて、生きがいに向かって進んでいる自分はとてもツイているぐらいに感じているはずです」

「そうなんだ」

「はい。実際、路上で販売するなんて行為は普通にあります。ランチにワゴンでお弁当を売りに出たり、訪問販売だって当たり前の行為です。もし、営業力が実を結んで資金を貯めて、自分がしたいことを達成してしまえば、あのときの苦労が報われたなんて成功話にだってなりうるんです。だけど、どんな美談を重ねようとも、目的はビジネスのシステムにどうやって相手を引き込むかの話だから、目先の利益に組み込むための偽物の支援なんです。いや、詐欺ですよね。一時期流行ったじゃないですか、サンセット会。あれですよ」

スギヨシのところにも来たというサンセット会。イベントを開いたり、巧みに逃げられないように囲い込みをして、搾取する。一時期、世の中からバッシングを受けた新興宗教

「でも、サンセット会って警察に捕まってなくなったんじゃなかったですか?」

「いやいや、そんなのただの一部ですよ。名前変えていっぱい活動してるんですから。だって、この前面接に行った会社、全然違う名前でしたけれど、サンセット会がらみだったんですもん。だから私、決まってたんですけど断ったんです」

「へー、そうなんだ。なんて会社ですか?」

「クリエイティブメゾン」

僕は、一瞬どこかで聞いた名前だなぁって思った。

「クリエイティブメゾン? あれ、知ってる」

「栗田さんも受けたんですか?」

「いや、違う。なんだろう。どこで聞いたんだっけな?」

そこで瑞希が参加する説明会の団体を思い出す。

「あ……」

 

少しずつ辻褄が合っていく感覚。僕は一瞬、背筋がゾッとした。

そして瑞希のことを考えた。

 

 

恋すること

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