奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十二章・その②

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「野菜のことは喜んでいたわ。だけど、今度説明会行くって話したでしょ栗田君にも。あの話をしたら、なにか怪しいってね。凄く険悪になったの」

「どういうこと?」

「私はね、その説明会に誘ってくれた人と会ってるの。凄く良い人よ。親切で明るくて、とても美人なの。私たちはすぐに友達になれたの。色々な話をしたわ。野菜についてとか、生命力についてとか、料理についてとか、子供の頃の話とかもね、ホント色々。だけれどね、りっちゃんも光ちゃんも、その人は怪しいって決めつけるの。さっきの電話でもね、その親切な千寿さんって言うんだけれど、こんな親切なのに、みんな会ってもいないのに怪しいっていうから、なんだか私も……」

「そう、それは残念だね」

「ねえ、栗田君も言ってたじゃない。それは大丈夫なのって、説明会の話聞いて。なんでそう思うのかしら?」

「一般的な印象の話さ。それが本当に怪しいかどうかは分からない」

「千寿さんも怪しいって言うの? とても親切で優しいのよ」

「千寿さんがどういう人かは分からない。会ったことはないしね。だけど、そう言った勧誘をしてくる人たちは、もちろん、目的があるわけだから印象を良くしようと親切だったり、よく話を聞いてくれたり、なにかしらの訓練を受けている場合もある。でもそれは怪しい団体の勧誘に限ったことじゃなくて、セールスだったり、接客だったり、一般社会ではある程度当たり前に浸透している。その人の人間性を前面に出すとか、そう言ったことより効率の問題だよね。失礼なことをしないで礼儀正しくしていた方が物は売れる」

注文した料理が運ばれてきた。ウェイトレスが料理を机へ並べる間、僕は話すのを止めて、その料理のでき栄えを眺めた。

「私は千寿さんも好きだし、りっちゃんも光ちゃんも好きなの」

「うん」

「ちょっと行ってみるだけでもダメなのかな?」

「よくいうカルトとか怪しい団体は、囲い込みをするんだ。巧みに近づいて、弱みに付け込んで搾取する。健全な場所は入口があったら出口があるはずなんだ。たぶんりっちゃん達が心配しているのは、入ったら出られなくなるかもしれないってことじゃないかな?」

「ねえ、どうしたらいいと思う?」

「その千寿さんが言うセミナーにはどうしても参加したいの?」

「別にどうしてもってわけじゃないわ。ただ楽しそうって思っただけ」

「特に必要ないなら、無理していく必要はないんじゃないかな?」

僕がそう言うと、瑞希は明らかに不満そうな顔をした。

僕はこの前の小人の夢を思い出した。瑞希は足元をすくわれるかもしれない。影の存在。

「あのさ、話変わるけど瑞希ちゃん。この前の体験農業のとき、麦わら帽子に黄色いリボンつけてた?」

「え、なんで知ってるの?」

「小人が教えてくれたんだ」

「小人ってあの悪い小人?」

「夢の話なんだけれどね、最近よく見るんだ。そのとき、僕は小人獲りになっている。虫取り網を持ってね、影で人を覆う小人を見つけると、それを虫取り網ですくって捕まえるんだ。だけど、僕はまだ一度も小人を捕まえられていないんだ。それどころか、小人と友達になって夜な夜な話をするんだ」

「素敵な話ね」

「その小人が見せてくれたんだ。瑞希ちゃんが畑で作業する姿をね」

「不思議ね、よくリボンのことまで見えたわね」

瑞希は小人の話に興味を持ったらしく、表情が明るくなった。

「でも、まあ見えたんだ。僕も驚いた。だけど、もっと肝心なのがそのときに小人が言っていたんだ。瑞希ちゃんの足元に影があるって。これは小人が仕掛けた罠なんだって。足元をすくって、そのうち影で覆うつもりなんだ」

「なにそれ、怖い」

「だけど、小人は言ったんだ。まだいくつか方法はあるって」

「方法?」

「うん」

「それはなんなの?」

「それは教えてくれなかった」

「栗田君の方がよっぽど怪しいじゃないの」

「うん、まあそうだね。で、あと一つ。小人はそのとき僕にこう言ったんだ。『頑張れな』って」

「どういうことなのかしら?」

「分からない。夢の話だから、意味なんかないのかもしれない。麦わら帽子のリボンだって偶然かもしれない。ただ気になるんだよね」

瑞希はラーメンを食べ終えると、ドリンクバーへ行き、ウーロン茶のお代りを持ってきた。

「ねえ、じゃあこうしない? もし私になにかあったら栗田君に連絡するから。助けに来てくれる?」

「もちろん、良いよ」

僕は即答した。僕には瑞希はとても必要なんだと、それだけは確信が持てたから。

助けてと言われたら助ける。

「それが谷底だろうが、アマゾンの奥地だろうが、砂漠のど真ん中でも?」

「もちろん、助けに行くよ」

「じゃあ解決だね」

「え、ちょっと待って、じゃあ説明会に参加するの?」

「大丈夫よ。千寿さんの無実は晴らされるわ。きっと。で、なにかあったら栗田君が助けに来てくれるもの」

瑞希を見ていると、気が付けば不安ばかり探してる自分が滑稽に思えてくる。なにも先のことばかり考えて今を台無しにする必要はないじゃないか。

瑞希は嬉しそうに笑い、僕の餃子を一つ食べた。

 

 

 

ガソリンゼロ

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