奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十二章・その①

f:id:jetoku33:20190626202106j:plain

 

 

十二

 

小人の夢を見たあとに、瑞希のことが気になった。

簡単に言えば「胸騒ぎ」のようなものが僕の中に留まっていた。頭の周りを飛び回る蚊のように、なんとなく気を散らし、僕を少しイラつかせた。

 

面接から数日たった月末に父さんから電話があった。

父さんは、僕が電話に出るなり、相変わらずぶっきらぼうな声で、

「あのさ、犬飼ったから」と言った。

この前、わざわざ上京して僕に伝えたかった「犬を飼いたい」をすぐに実行したらしい。あれから一週間と経っていない。よっぽど飼いたかったんだろう。

電話が切れたあと、父さんからメールが入った。開いてみると、画像が添付されていて、それは子犬を抱えた父さんの写真だった。笑顔の父さんと、両手で持ち上げられ、キョトンとした子犬が正面に向いて写っていた。きっと母さんが写したのだろう。父さんはとても嬉しそうな顔をしていた。

 

僕は瑞希からもらった大量のジャガイモを使って、うすく輪切りにしたイモだけのバーベキューをした。

カセットのガスコンロにフライパンを乗せて、バターを敷いてその上にジャガイモを大量に乗せて焼く。焼き色が付いたらひっくり返す。良い頃合いで焼き肉のたれをつけて食べる。カリッとした食感でおいしい。食べながら、無邪気に芋掘りをする瑞希のことを考えた。

食べ終わったあと瑞希に電話をした。前回会ってから一度電話をしたのだけど「ごめん、あとでかける」と言われて急いで切られたきり、かかってこなかった。瑞希とのやり取りではそう言ったことはよく起こる。きっと忘れているんだろうなと思いつつ、今回は「胸騒ぎ」のようなものが僕を刺激し、落ち着かなかった。

五秒ほどのコールのあとに「はい」と電話に出た瑞希の声はいつになく沈んでいた。

「どうしたの? 声が元気ないよ」

「そうかな。なんでもないよ」

「なら、良いんだけれど。あのさ、ジャガイモ食べたよ。とても美味しかった」

「そう、良かった」

瑞希の反応は淡白だった。僕は勝手に大喜びをして質問攻めをしてくる瑞希を想像していたので、少し動揺した。

「ねえ、なにかあったんなら相談ぐらいには乗るよ」

「うん。ありがとう。優しいのね栗田君」

「ねえ、もし良かったらこれからケーキでも食べに行かない? 野菜のお礼もしたいしさ」

「ええ。良いわよ」

 

駅前で約束の時間になっても、瑞希の姿はなかった。

十分ほど過ぎたときに電話をしてみたが、話し中だった。なにかあったのだろうか?

僕はどうすることもできず、駅前の公園のベンチに腰かけていた。通り過ぎる人々をポカンと眺め続けた。まあ、待てばいいじゃないか。

まばらだった人混みが、下り電車の乗客が合わさり、ひと塊になってあふれ出た。

すると、電話をしながら瑞希が駅の地下道からゆっくりと出てきた。瑞希は僕を確認すると、電話をしながら少し口角をあげて、軽く頷いた。僕は、しばらく電話で話し続ける瑞希を待ち続けた。僕は五分ほど、瑞希の電話が終わるのを待った。電話を終えて、瑞希はどこか不満足そうだった。切る前に「じゃあね」と言っていたのだけれど、その声が明らかに相手に対し不満が残っているのよアピールの声色だった。

「ごめんなさいね、電話」

「いや、いいよ」

きっと瑞希は自分が遅れたことも気づいてないんだと思った。

「ファミレス行かない?」と瑞希が言った。

「え、いいよ。もちろん。でも、なんでファミレスなの?」

「ゆっくりしたいの。気楽に」

「そう、分かった」

 

僕達は駅から近いチェーン店の中華レストランに入った。

瑞希は相変わらずなにか気がかりなことを抱えている表情を浮かべていた。

「ジャガイモとても美味しいよ。どうもありがとう」

僕がジャガイモのお礼を言うと、瑞希はニコリと微笑んだ。

「美味しいでしょ? なんなのかしらね、売っている野菜と違うような気がするのよね」

「他の人も喜んでたでしょ?」

「他の人?」

「ほら、何人かに送ったから反応を見に行くって言ってたでしょ?」

「ああ、あとね、二人に送ったの。りっちゃんと光ちゃん

この二人はたまに瑞希との会話の中に出てくるのだけれども、僕は実際に会ったことは一度もなかった。

「どうだったの?」

瑞希の表情が曇った。

 

 

くらげ

くらげ