奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第十一章

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十一

 

辺りは暗闇だったが、自然と周りを見渡せた。そこは森の中で、僕は洞窟の前で待たされていた。

この前小人の案内された洞窟。僕はどうやら小人に呼び出されて、またここにいるらしい。

サワサワサワと、遠くから葉が揺れる音が近づき、頬を撫でるような風が吹き、森全体の木々が揺れた。風は心地よく、不愉快にさせるものではなかったし、木々の揺れ方はどこか友好的だった。

「この前はありがとうな」

どこからか声が聞こえて、辺りを見回すと洞窟の入り口に小人がちょこんと飛び跳ね現れた。真っ赤なとんがり帽子に、白いひげ、とがった鼻に、黒いとんがり靴。童話から飛び出て来たような小人の姿。

「あいつが久しぶり訪ねてきたよ。ずいぶんと大人になってた」

スギヨシのことを言っているんだなと僕は理解する。僕も「そういえばスギヨシが小人に会ったとメールしてきたなぁ」とうっすら思い出したりしている。

「あいつも久々に俺に会えて嬉しがっていたよ。でもさ、あんな大人になってんじゃ、忘れてても仕方ないよな」

「そういうもんなんですか?」

「ああ、結局俺たちを忘れるのはだいたいにおいて二種類あってな、まず怠け者になって俺らが影で覆ってしまうパターンと、距離ができるパターンなんだ」

「距離ができる?」

「うん。気持ちが離れるんだ。大人になって。それは別に悪いことじゃないんだ。俺たちが寂しいだけでさ」

「寂しいんですか?」

「そりゃ、寂しいさ。忘れられるってさ、寂しいよ」

「そうなんですか」

今日はいつもにもまして小人が饒舌だった。きっとスギヨシと会えたことが嬉しかったんだろう。

「で、今日呼び出したのはお礼をしようと思ってさ」

「お礼ですか」

「ついてきな」

小人はそういうと、ピョンピョンと跳ねながら洞窟の奥へ進んでいった。僕は小人に続き洞窟の奥へ入っていく。

洞窟の奥は相変わらず綺麗な光に包まれていて、幻想的だった。小人はお構いなしに進むと、また小さな水たまりの前で止まり、

「本当は内緒なんだぞ。特別なんだぞ」と言った。

「はい。ありがとうございます」

「ここ。覗いてみな」

「へ? はい」

僕は小人が指示した小さな水溜りの一つを覗いた。

そこには畑で作業する何人かの姿が映し出されていた。

結構広めの畑に、何人かの男女が楽しそうに芋を掘り出したり、ナスを摘んだりしている。

「畑ですね」

「ほら、例えばあそこにいるあんちゃん。かぼちゃのところでポツンと立ってる奴、そいつの足元見てみろ」

「え、はい」

僕は目を凝らし、小人が言っていたかぼちゃ畑の青年を探し出し、見つめた。

「足元に影みたいなのないか?」

僕は小人に言われるがまま、じっと見つめる。確かに青年の足元から膝にかけて黒い影のようなものが覆われているのが分かる。

「ありますねぇ」

「あれ、罠だぞ。他の小人が影で覆う前に、足元をすくうために仕掛けるんだ」

「そんなことしてるんですか?」

「しょうがねぇだろ役割なんだから。こんな格好させられて、生真面目に働いてんだよ俺達は。もちろん、どの小人かはお前ら小人獲りには教えられねぇけどな。仲間を売ることになっちまうから」

「はあ」

小人獲り。そういえば、スギヨシに会ったときそんなようなことを言っていた。虫取り網を持って夜な夜な小人を獲りに出かけているんだと。だけども、いつしか小人に会うのが楽しくなって、小人と仲良くなっていったんだと。たぶん、僕は今、小人と仲良くなった小人獲りなんだろうと、うっすら自覚する。

「でさあ、あの女。ジャガイモのところの麦わら帽子に黄色いリボンつけてる」

「え、はい」

僕は小人に促されて、そっちを見る。

ジャガイモ畑で腰をかがめて、必死に芋ほりしている麦わら帽子を被った女性が見える。麦わら帽子に黄色いリボンが和やかさを演出していた。

そこに集中すると、その女性が水溜り全体に大写しになった。

「お前好きなんだろ?」

ジャガイモ堀をしていた女性が背筋を伸ばし、額の汗をぬぐった。顔が見えた。

「あっ」

瑞希だった。瑞希は再び屈み、夢中でジャガイモを掘り続けている。

「これ録画なんだけどさ」

「録画なんてあるんすか?」

「録画しなきゃ出歩けないだろう」

「はあ」

「お前の好きな女の子。足元見てみな」

僕は瑞希の足元をジッと見つめる。

「あるだろ、黒い影が」

分かりにくいが確かに瑞希の足首を不自然な影が包み込んでいるように見える。

「はい」

「そういうこった」

「え、ということは、瑞希が足をすくわれるかもしれない罠を仕掛けられているってことなんでしょうか?」

「あまりしゃべりすぎると怒られちゃうからな」

「で、でも、どうすれば?」

「一つ言えることは」

「はい」

「まだ、いくつか方法はある」

「方法? それは罠から逃れることができるってことですか?」

「俺、あんちゃんのことも好きだぜ。だからさ、頑張れな」

「え、はい」

「じゃ、また会えたらな」

「え?」

 

 

目を開けると漫画喫茶だった。

僕は映画のDVDを見ている状態で眠っていた。画面はチャプター画面のままで周辺を照らしていた。

瑞希の足元にある黒い影。それは足元をすくうための小人の罠。

僕はボンヤリと思考を整え、その夢はいったいなにを表しているのかとしばらく考えていた。

 

 

 

恋すること

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