奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

ルチェルナのこと 第三章・その②

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バイトはいつも簡単な朝礼の後、品出しをしている途中で、開店時間になる。レジ班が自分に回ってくるまで、この品出し作業と、在庫確認、発注作業が続く。

品出しは、コーナーごとに充填する商品がケースに入れられていて、それらを黙々と陳列棚に並べていく。この黙々と商品を並べる作業が、僕には性に合っていた。

あまり、余計なことを考えずひたすら商品を並べていく。こういった「真っ白」な作業に埋没しているときになにかを忘れることができる。

 

と、品出し中、一人の女性客に話しかけられた。

「あの、すみません」

「はい」

女性客は二十代前半で、明るめのグリーンのスカートに、白黒のボーダーシャツ。その上に黒色のカーディガンを羽織っていた。肩ぐらいまでの栗色の髪は耳をだし、清潔感のある印象だった。

瞬間、僕はどこかで見た顔だなと思ったが思い出せなかった。彼女も僕に見覚えがあるような感じはしなかった。

「ハサミとボールペンはどこらへんになりますか?」

「あ、はい、こちらです」

僕は接着剤がある文房具コーナーまで案内すると、彼女は、

「ああ、ここですね。ありがとうございます」

と言って、ニッコリと笑った。その笑顔はとても自然で、感じが良かった。

 

その日は早番で、とくに大きな事件もなく、夕方にバイトを上がった。

店舗裏の駐輪スペースへ行って帰ろうとしたとき、手前の道の自動販売機の横にあるベンチに、文房具の場所を訊いてきた女の子が座っていた。

スマホを真剣に見つめていた。が、ふと顔を上げ、僕に気づき目が合った。

彼女はキョトンとした顔のあと、伺うように僕の方を眺め、立ち上がり、僕に会釈をした。

僕が会釈を返すと、彼女は僕の方へと寄って来た。

「あの、失礼かと思ったんですが」

彼女は昔からの知り合いにでも会ったような無邪気な表情で僕に話しかけてきた。

「え、あ、はい」

「職安に毎週行ってらっしゃいませんか?」

「あ!」

そう言われ、僕も気がついた。職安で見かけた女の子だ。一人、とても楽しげに呼び出されるのを待っていたあの娘だった。

「え、はい?」彼女は僕の反応に驚いた様子で聞き返した。

「あ、いやすみません。行ってます。職安に」

「そうですよね。私、どこかで見た顔だなって思って。すみません話しかけちゃって迷惑でしたか?」

「いや、大丈夫です」

「ごめんなさい、勝手に親近感沸いちゃって。あまり知り合いいないんですよ東京で。あの、どうですか、仕事見つかりそうですか?」

「あ、いや、ま、頑張ってます」

「私、これから面接なんです」

「あ、そうですか。うまくいくといいですね」

「はい。あの、栗田さんも」

「え?」

「あ、さっき名札してたから」

「ああ、はい。そうですね」

「頑張ってください!」

僕は彼女にそう言われて、就職活動をしていたことを思い出した。

「はい、どうもありがとうございます」

僕は軽く会釈して、自転車のペダルを漕いでその場を離れた。

少し緊張していた。後ろを振り返ると、彼女はニコリと笑い、グッと右手で小さなガッツポーズを作った。

僕もそれに応え、ガッツポーズを作り、ニコリと笑った。やったあと少し照れた。

とても良い子だなぁと、清々しい気分になった。

 

 

不器用なアナログレコードの挑戦

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