奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

コンビニバイト。

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この前、田舎へ帰った時、昔バイトしていたコンビニの前を通った。

もう、閉店していて店は無かった。

 

深夜の一人勤務。実際に夜中にひとりで働かせるのは違反だかなんかで、いけないようなのだけど、店舗の二階に店長家族が住んでいて、「呼べばすぐ来る」から良いんだと言っていた。

大丈夫、夜なんて誰も来ないから。そうも言われた。

実際、十二時を回るとほとんど人は来なかった。なので、店内を清掃して、ポリッシャーをかけて床をピカピカにして、期限切れ迫った食品を回収して、廃棄作業して、搬入業者が商品を置いていき、本を並べたり、商品の品出しに時間が割かれる。その間に接客をする。

結構、忙しい。そして朝になるとまたレジに人が並ぶぐらい騒がしくなり、解放される。

 

忙しかったけれど、一人で仕事をするのは好きだった。

段取りを自分で決められ、自分のタイミングで休憩を挟める。

 

入った当初、僕の前に勤めていた人物にたかっていた不良が「あなたにもそれをやっていただきたい」などと、軽く脅されたりしたけれど、「無理ですね」とだけ言いつづけたら来なくなった。

最初の二時間は、一人残って一緒に作業していくのだけれど、その彼が実はレジの金を盗んでいたなんてこともあった。当初、店長は僕を疑ったようなのだけれど、ちゃんと犯人がカメラに映っていたらしく、無実が証明された。

その金盗んでいた奴も、僕にとっては「ゆっくり休んでてください。やっておきますから」なんて言ってくれる親切な若者だなぁなんて思っていた。でも、そんな裏の顔があった。一万円札はレジに残しておくと色々と危ないので、ポストのような金庫があって、そこへ入れる。「あ、それある程度溜まるまでやらなくていいって店長言ってましたよ」なんて彼は言っていた。それは盗むために、僕についた嘘だったんだなぁなんて後で気づいた。

 

ホームレスが廃棄作業していると寄ってきて、

「その弁当時間が来たら捨てるんだろ? 捨てるんだったらこっちに分けてくれねぇかなぁ、人の命にかかわる話なんだよ」

なんて言って交渉してきた。あまりの切実さにこりゃ大変だなんて思って、店長に確認すると、

「ダメ。売り物だし、それで食中毒が出たら店の責任だし、そういうのはいけないの」

と、言われ、あー、なるほどと納得した。

 

近くのスナックのマスターとママがよく買い物に来た。酔ってた。けど、いつもご機嫌だった。

ホテルに泊まっている外人が、ホテルから「ピザを温めてくれ」って持ってきたことがあった。一度こっそり温めると、何度も来るようになって、「さすがに止めて」と言ったら怒っていた。

背広を着た同級生が偶然立ち寄り、横にいた上司に「同級生なんです」と紹介して、その上司に「あ、そう」と冷たい視線を向けられたこともあった。

財布を落としたと困っていた夫婦に、一万円貸したら、渡された連絡先は嘘だったこともあった。

 

そんな時でも、時間を見つけて、レジの片隅の丸椅子に座り、物語を書いていた。そのころ書いていたのは確か脚本版の「ガソリンゼロ」。

 

それなりに忙しいし、頑張っている自負があったけれど、たぶん誰にも評価されないような日々にざわざわと苛立ち、いつまでもこういうバイト生活っていうのもまずいよなぁって焦りがあった。知り合いの映画監督に電話で相談したら「百万貯めて東京へ戻ってきな」と言われ、コンビニに置かれていた求職案内雑誌から、毎回募集している月給三十五万の工場のライン作業員募集に応募し、採用されたのでコンビニを辞めることにした。

 

僕が辞めて約一年後に、その店にコンビニ強盗が入った。

鉄パイプをもった強盗が、店員に襲い掛かったらしい。

調べたら記事があった。

15日午前5時10分頃、静岡県沼津市のコンビニに鉄パイプを持った男が押し入り男性アルバイト店員(19)を脅し、レジにあった売上金17万2,000円を奪って逃走した。店にいたのは店員1人だけだった。

 

その襲われた店員はもしかしたら僕だったかもしれない。そう思うとゾッとしたし、その店員には心から同情した。

 

コンビニはもう、閉店していて店は無かった。

花屋になっていた。

きっと、僕が働いていたことなんて誰も覚えていないだろう。

 

 

 

家出しなかった少年

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