小説kinema

小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

死ぬこと。


 十月も中旬になり、突然寒くなった。

 前日冷房をつけるぐらいの暑さだっのに、今日は暖房が必要になった。

 気温差二十度。

 気温差十度以上あると、うつ症状の人が増えると、どこかで聞いた気がする。

 太陽の光を浴びないと、心が乱れると聞いた気がする。

 そういう季節。

 僕は鼻がつまり、耳が遠くなった。水の中に潜っているようだ。

 体調を崩すと弱気になる。

 自分の弱さをいつも以上に強く感じる。

 そういう季節。

 

 死ぬのが怖いと彼女が言った。

「なぜ怖いの?」

「だって消えちゃうんでしょ?」

 僕達は「時間があるので」、というアバウトさから「死」についての議題を採用した。

 人間の死生観、宗教、死後の世界……。

「どれも納得できないのよね。死んだら別の世界へ行くなら戻ってこられるでしょ? 生まれ変わるのなら前の記憶があってもいいわけでしょ?」

「前の記憶があるって主張する人だっている」

「そういうのもまた、不確かな部分で成り立っている気がするの。中には誰も知らないことなんだからって適当に言っている人もいるかもしれないし、死の研究者の話で、死後を語る人たちは知っていることや聞いたことある以上の記憶は話していないっていう人もいるわ」

「そもそも君はなにが怖いの?」

「消えてしまうこと。どこへ行くのか分からないことよ」

「じぁあ、そもそもの話をしたら生まれる前の君は存在していないわけでさ」

「そりゃそうよ」

「それは平気なの?」

「だって生まれてないもの。平気よ」

「じゃあ、平気だよ。死んじゃうだけと言いきっちゃえる」

「それとこれとは別よ。ねえ、平然としているけど、あなたは平気なの?」

「いや、平気とかそういうことじゃなくて、どうしようもないからさ。死亡率は百パーセントなんだからさ」

「だから怖いのよ」

「でもさ、君だって夜は眠るでしょ?」

「もちろん」

「眠っているときの記憶なんてないでしょ?」

「まあ、夢を見てるかもだけど」

「それにずっと起きているわけにもいかない。人はいくら起きていたくても、限界が来て、眠たくなったら眠るんだよ」

「うん」

「それと一緒じゃないかな。僕たちの意思とは関係なく、人は限界が来たら生きていたくても死んでしまう。眠るように。だからある意味、僕達は毎日、死ぬ練習をしているともいえる」

「眠るように」

「そう、もう疲れた。限界。よく頑張った。さて寝るかって」

「でも死んだら目を覚まさないじゃない?」

「それは死んでみないと分からないさ。けど、きっと死ぬことによって成立していることが沢山あるんだ。それに誰もが死んだからって戻ってくることをしていない。きっと居心地がいいのかもしれないよ。死後ってさ」

「納得がいかないわ」

「まあ、怖がっていたって死ぬんだから、死んでから考えればいいさ。取りあえず僕達は、眠るんだ。生きている限り」

「まずは眠って」

「そう、目を覚まして、生き返ったような気分になるのさ」

「うーん」

 

 帰り道、近所のコンビニへ寄ろうと向かう途中、片側斜線だけが渋滞になっていた。

 しばらく歩くと、接触事故の処理で路肩に車が停められ、警察が事情を聞いていた。

 事故を起こし、不運ととるべきか、命が助かって良かったととるべきか。

 僕と彼女を含めた見物の人たち。車が追い越すときにジロジロと見ていく。

 その女性は二十代前半ぐらい。後ろがへこんだ軽自動車の運転手だろうと思った。

 少し肌寒い。

 まだ寒さに慣れていない。

 ある程度諦めがついた頃にまた冬が終わる。

 僕と彼女は無言で歩いた。きっと彼女は死について考えているのだと思った。

 

 僕は彼女の後ろを歩きながら、そう言えばもうすぐ彼女の誕生日だなと思った。誕生日。生まれたことを祝う。プレゼントを考えなきゃ。

 

 僕達が肉まんを買って帰る頃には渋滞は解消されていた。

 

 

 

エイプリルフールに百歳で死ぬということ

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