小説kinema

小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

文章のかけら 1

星新一は創作するとき、思い浮かんだ単語をいっぱい書き出して、

その単語を組み合わせて、物語を作っていたと。

で、「できそこない博物館」って本があって、

結局使わなかった「創作メモ」を星新一が解説と共に紹介している本なんだけど、

それを高校時代に読んだ僕は、随分と感化された思い出があります。

 

んなわけで、僕も掌編にすらなっていない文章をたまになんとなく載せたいってことで、

良かったら、なんとなく読んでください。

 

 さなぎという名前は、どこか成長を拒んでいる気がした。

 姉はなぎさという名前。明るさが漂っている。

「でもさ、さなぎのほうがいいな、私」

「なんで?」

「ちょっと哲学じゃん」

「そうかなぁ」

「そうだよ」

 姉はどこまでも「なぎさ的」だった。

 

「僕はとても傷ついているんだ。君には分からないだろうけどね」

「……」

「僕は明日、死んでいるかもしれない。だからといって、君が罪悪感を抱える必要はないんだよ」

「……」

「……」

「……」

「怒っているのかい? いつから君はそんな繊細になったんだ」

「……」

「君には失望したよ」

 

「……?」

 

「昨日、疲れちゃったな。何だか筋肉痛だし、今日はうまく出来るかな……」

 と、何だかずっと独り言をしゃべっている佐々木さん。うざい。

 僕は何か、その会話に対し、答えなきゃいけないようなプレッシャーを感じている。

 けど、実際、それをし続けて疲弊しての一週間。

 昨日決めた。聞き流すことを覚えるんだ。

「あれだよな、日光が強いんだ。だから外に出ると、昨日より疲れてるんだろうなぁ」

 聞き流すために、何だか余計、話を聞いている気がする。

 でも、僕にも何かしらの基準を設けないと、と、そう思っていた。

 例えば、問いかけられた場合答える。タメ口の場合、流す。

 そもそも、なれなれしく話されるのが嫌いなんだ。身体全身で拒否したい。

「家にいると、何だか疲れちゃうんだよね。もっと外に楽しみとかもてたらいいんだけどさ……」

 佐々木さんは相変わらず誰に向かってしゃべっているのか分からないがブツブツとしゃべっている。ストレス。

 その一、名前を呼ばれて話しかけられたら答える。

 その二、答えたくないことに関しては沈黙。

 その三、誰かの悪口には同調しない。

 

 悪口に関しては、自分なりの考えがあった。どうも、その話に乗ると、相手はもっと話したくなってしまうということ。逆に否定しても、待ってましたとばかりに、「いやさ、それだけじゃないんだ」と、余計色々と、酷いんだあいつと、重ねてくる。

 教訓。いない相手の話をするときは、そこにその人がいると思って話したほうがいい。

 悪口の同調を求められているときは、沈黙。

「でもさ、今朝、快便だったからきっと昨日食べたものが良かったんだよね」

 さて、まだ佐々木さんは誰に言っているのかわからない独り言を呟いている。

 僕も一週間前は、ここに五人もいるのに、なぜ、みんな沈黙して、佐々木さんだけしゃべり続けているのか不思議だった。しかし、佐々木さんのとりとめのない会話をずっと受け答えしていると、とにかく「搾取」されている気分になる。自分が楽しくない。

 

「さあ、元気出していくかなぁ」

 と、佐々木さんが言って部屋を出た。

 すると、みんなから一斉にため息がこぼれた。

 

 しかし、どうしたらいいのだろうか。

 結局、沈黙をしたところで「搾取」されている気分のままだ。

 反撃がしたくなるのが人の弱さ。

 

「佐々木さん、独り言やめてもらえます?」

「!」

「!」

「!」

 仕事中、小柄でいつも無口な笹井さんが言った。

「え? 独り言? 言ってた?」

「はい」

「うるさい俺?」

「……」

 沈黙対応。笹井さんの苦労が窺えた。

 

 そして、その日、職場に沈黙が流れた。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 重苦しい。

 そのうち佐々木さん、何かしゃべりださないかなぁと思っていた……。

 

最近、チマチマしたことが書きたくないなぁて思いつつ、

チマチマしたことをおろそかにしてると、きっと遠くまでいけないんだろうなと、

自分を震えさせるような、「感じ」が来るようにと。

 

チマチマ。

 

 

できそこない博物館 (新潮文庫)

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