奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

浦島津太郎

 一昨日、お爺ちゃんが死んだ。
 数日後、街を歩いていると、そのお爺ちゃんが歩いていた。
「え?」
 僕は慌てて追いかけたけれど見失った。

 きっと見間違いさと、気にするのを止めてまた街中を歩いてたら、フラフラと挙動不審な老人が歩いていた。
 なにやらブツブツ言っているが聞き取れない。目は虚ろ、口は半開き、よだれをたらしているようにも見える。
「あ」
 僕が何かの気配を察したと同時に、その老人が飛び掛ってきた。
「うがぁーっ、うがぁーっ」
 なに、ゾンビか?
 僕は老人を振り払い、走った。
 が、次々と老人が現れる。道の角から、方々の家から、コンビニから、ありとあらゆるところから老人が出てきて、ふらふら歩いている。
 冷静になれ、老人はいるのだ。
 世界は今、老人で溢れているではないか。
 と、思ったら、周りにいる老人が一斉に僕に飛び掛ってきた。
「うわぁぁぁぁぁ」
 僕は老人を振りほどきながら、頭の片隅で「老人には親切にしなきゃ」と過ぎるのだけれど、そんな状況ではない。
 ある老人は「あの女、いいケツしてるな」と呟いてる。
 「酒だ。酒をもってこい」と呟いているもの、「頭おかしいなあいつ」とか「死ね、どいつもこいつも死ね」など暴言を吐く老人もいる。ありとあらゆる欲求が集約されてた様な老人がフラフラとこちらへ寄ってくる。
 と、突然陽気なハワイアンが流れ出し、若い女たちがふらふらとやってきてフラダンスを踊った。
 老人たちは吸い寄せられるようにして、そのフラダンスにふらふらと着いていった。

 僕はホッとため息をつくと。よこに老婆が立っていた。
 うっすらと髭が生えていた。
 そういえば女性は老人になると女性ホルモンより男性ホルモンが増えるらしいと情報を見た気がする。
 と、老婆は僕の股間をいきなり掴み、
「ちんちん」
 と言ってニターっと笑った。
 
 ああっ、と僕は嫌になって走り出した。
 遠くへ行こう。老人がいない場所へ。
 電車に乗ると、老人しか乗っていなかった。

 僕は疲れ果てて、家に着くといつのまにか眠ってしまった。
 目を覚ますと、家ではなかった。
 病室?
「あら、目覚めました?」
 看護師の女性が僕に声をかけた。
「え、どこですか?」
「病院ですよ」
「なんで、僕、ここにいるんでしょうか?」
「最近、変なウイルスが流行って検査入院しているんですよ」
「変なウイルス?」
「コンピューターにちょっと欲求に忠実なゾンビ的な動きを組み込むウイルスみたいですよ。会いませんでした? ゾンビみたいな人たち」
 僕は、街中で出会った老人たちのゾンビ的な動きが頭を過った。
「あ……でも、コンピューター? って」
「だって今、社会が進化して誰も死ねない時代じゃないですか。身体にコンピューター組み込んだりして」
「ん?」
「あ、気づいてません? あなた、肉体的には百年前には死んでますからね」
 看護師がカルテのようなものを見て言った。
「へ?」

 途方に暮れる。
 僕はいつのまにか死んでいて、頭のコンピューターが一時的にバグって混乱していると言われた。
 死んだ爺ちゃんも、死んでなかったってことなのか。
 修理終了? 色々と信じられない。
 記憶の混乱。
「よくありますよ。コンピューター社会ですから」
 らしい。

 どうも死ねない社会じゃ、「老人スタイル」が流行りらしい。クールと。死ねないのに老人。「やべぇ」って。
 だから、周りはみんな老人ばかりなのか。

 僕は疲れ果て、路地裏の老人に話しかける。
「あれ、手に入りますか?」
 老人はニヤリと笑い、僕にその箱を手渡した。

 僕はコンビにて缶のハイボールを買って飲み干すと、その箱を開けた。中から煙が出てきて、僕は老人になった。
 なんだかどうでもいい気分になり、道端にタンを吐いた。