小説kinema

奥田徹の小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

あるコンビニバイトの夢

 子供の頃の夢はなんだったっけと頭を過ぎり、横断歩道で立ち止まり、信号が変わるのを待った。

 信号はなかなか変わらないまま、歩いてきた何人かが僕の周りで立ち止まった。

 みんな立ち止まりる。夢なんか叶わない。そして考えるのを止めた。


  僕は空を眺め、雲一つ無い青空の先を確認すると、周りが歩き出し信号が変わった事を知る。
 「信号が変わった」
  僕は誰にも聞こえない様な声で呟き、歩き出す。


  出来れば目立ちたく無かったから、自分で出来る事は自分でこなした。あまり騒がしい事が好きじゃなかったし、誰かを信用するのも恐がってた。心のどこかで人は平気で裏切ると思っていたし、いざという時、誰も助けてくれなかったらどうしようと思うと、最初から関わりは少ない方が良と思う様な、つまり後ろ向きな性格だった。

 「先輩って幾つなんですか?」
 バイト中、客が途切れ、ふと手持ち無沙汰な感じで後輩が尋ねた。
 「三十六歳」
 「結構来ましたね。どうですか? 三十六歳は?」
 「どう?」
 「思っていたような三十六歳になれています? 例えば子供の頃、漠然と想像していた今の年齢とのギャップとかあります?」
 「いや……三十六歳にはこんなになってて何て考えて無かったな。ただ、ずっと先の事だと思ってたから色々うまくいってる気がしてたかな漠然と。」
 「うまく行ってます?」
 「……さあ、何も解決してない気がするな」
 「何ですかそれ?」
 「歳はとる。これから先も。こちらの覚悟なんて関係無しに。それを覚えたんだな」
 「深いっすね~」

  深くも何とも無い。後悔してるってのを屁理屈で濁らしているだけだ。誰も興味無い話だ。

  深夜コンビニのアルバイト。後輩は今日が勤務三回目で、多少馴れた様子が伺えた。前までいたバイトは無口で、大学生だった。あまり打ち解ける事が無いまま、突然辞めていった。

 「仕事は他にしてるんすか?」
 「いや、バイトだけだよ」
 「へ~。そうなんすか」

  三十六歳で深夜コンビニのアルバイト。仕事はそれだけ。きっと見下されてるんだろうなと……沢山言い訳したいが、何も言わなかった。こいつが聞かなきゃ誰にも聞かれないんだ。


 「俺、どうしたら良いですかね?」
 「ん? 何が?」
 「何もしたくないんすよね。俺」
 「……それは、困ったね」
 「ええ、マジ困ってるんす。俺、クズなんすかね?」
 「そんな事ないよ。きっと。何もしたくない奴は沢山いる」


 と、そんな話をしている最中、本日の納品車両が到着した。
  二人で交互に休憩を取りつつ、品出しをした。


 「全然客来ないっすよね」
 「そのお陰で品出しとか廃棄作業が結構あるんだよね」
 「縁の下の力持ちっすよね僕達」
 「そんな良いもんじゃないだろ」

  朝の五時を過ぎた頃、唐突にやる事が無くなる。

 「やっぱり、金なんすかね?」
 「ん?」
 「俺、一度コンビニ強盗しようかって考えた事あるんすよね」
 「マジで?」
 「でも、怖いじゃないすか、色々。だからやんなかったんすよね」
 「まあ、そうだよね」
 「。……」
 「……ん?」
 「やってみて良いすか?」
 「何を?」
 「コンビニ強盗」
 「ここで?」
 「ここで」
 「……マズイだろ」
 「夢、叶えちゃって良いすか?」
 「……」
 なんだかだんだんとイライラしてきた。別に良い人ぶりたい訳じゃない。自分が短気なのを知っていたから、それじゃダメだよなと思って、それなりに努力しているんだ。しかし、好き勝手されると「何しやがんだ、こっちが我慢してんのに」と、ムカムカしてくる。
 「……分かった」
 「お、マジすか!」
 「その代わり、返り討ちにしてやる!」
 「え? なに」
  深夜テンションである。外は真っ暗、人通りも無く、みんな寝てる時に、コツコツ働いてると、何だか色々投げやりになりたくなる。
 「本気でやれよ! 後先考えるなよな夢なんだろ!」
 「分かりました。先輩も僕だと思わないでいいですからね」
 そういうと彼はニヤリと笑い、
 「休憩入ります……」
 とバックヤードへ消えていった。

  店内に流れる有線。
  奴がいつ強盗に来て良いように、レジにて待つ。
  休憩と言い、何かしら変装して、裏から店を出て襲ってくるつもりだろう。

 が、十分経っても彼は来ない。
 「何が夢を叶えるだよ……」

 と、独り言を呟いた時だ。フルフェイスのヘルメットを被った男が、
 「おら! 動くな!」
 と、道端で拾った様な鉄パイプを右手に持ち、入ってきた!
 「いらっしゃいませ」
 ここはまず空かしてやる。こいつの挑発に乗ってなんかやらないんだ。

 「ふざけてんのか!」
 「さて、どうかな……」
 こんな感じで悪に立ち向かうヒーローをしてみたかったなと、だんだんこちらも乗ってくる。

 「金出せやコノ野郎!」
 と叫ぶと、カウンターを思いっきり鉄パイプで殴った!
 「あらあら、ダメだよ。傷ついちゃうじゃない」
 と言いながら、僕は余裕を見せながらレジの横に出て、彼と対峙した。
 そして、悪い奴を倒すと言えば……と、
 「な、何してる!」
 バシッと無意識に酔拳のポーズを構えていた!
 とっさにとった行動だったが、わりかし遠く無い様な気がした。

 あの酔っ払った動きをしながら悪い奴をやっつける。いつかみたカンフー映画

 「ふざけんなっ!」
  彼が襲い掛かって来た!
  僕は子供の頃何度も真似した酔拳の動きで、鉄パイプを避けると、そのまま腹をパンチし、後ろ蹴りで床へ倒した。

 「先輩?」
 「ん?」
  彼が倒れた先のバックヤード扉に、後輩がビックリして立っていた。
 「あ……え、こいつは?」
 と、その隙に、ヘルメットの男慌てて立ち上がり、走って入口を抜け、逃げていった!


  本当のコンビニ強盗だった……。
 その後、警察に連絡し、お巡りさんが来て、店長も降りてきて、皆で防犯カメラの映像を見た。

  僕が酔拳をしていた。
  見ていた全員が笑った気がした。

 「酔拳か?」と、店長が僕に聞いた。
 「ええ……、一度、酔拳で戦うのが子供の頃の夢でして……」

  酔ってないのに真っ赤になってるのが分かった。
  外は夜が明けかけ、朝日で赤く空が染まっていた……。