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小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

さよならピノコ

 十年間、我が家の愛車として活躍したピノコを手放す日が来た。

 実家に住んでる父親が車を乗り換えるので、今まで乗っていた車をもらうことになったから。

 

 僕は車をほとんど運転しない。

 免許を取ったのも二十代後半だし、自動車学校にいた頃から「免許を取ったら車に乗るのは止めにしよう」とすら思っていた。

 とにかく運転が嫌い。免許返納すら考えた。

 僕は普段、原付バイクに乗ってる。

 

 ピノコを運転するのは妻だ。

 十年間、妻が運転していた。

 結婚する年に、

「車が欲しい。これからの結婚生活には自分の車が必要」

 と思い描き、貯金額とにらめっこしていた時に、車プレゼントの懸賞に当たった。

 レンタカー屋で何気なく答えたアンケートだった。

 妻は応募したことすら忘れていた。

「運命に味方されている」

 とさえ思った。

 

 

初対面のピノコ。まだぴかぴか。

 

 日産ピノだから「ピノコ」と名づけた。

 軽自動車。色も選べて緑にした。

 懸賞に当たったときに約束事があった。二年は転売しないで乗ること、車検などは自分たちで支払うこと。

 

 僕たちは十年間で、東京、長野、神奈川と、このピノコとともに生きてきた。妻の絵画教室も、絵の搬入も、映画のロケハンや、撮影も、何気ないドライブも、日用品の買い物もピノコと一緒だった。

 

旅先で迷子

 

ピノコから撮った夕焼け

 

スペアキーな冒険」撮影時

 

ピノコから降りて眺めた夕焼け

 

 修学旅行ぐらいしか、旅行をしたことなかった僕は、妻とピノコで沢山の場所へ出掛けた。

 

 あの不幸な震災の前日、

 2011年3月10日。

 僕たちは東北方面へ向けて車を走らせていた。

 高速道路で小石が飛んできて、フロントガラスに小さなひびが入った。

「なんか不吉だね」

 日光で用事を済ませ、翌日観光をしようと思っていたのだけれど、フロントガラスのひびは徐々に広がり始めていて、気にかかり、帰宅することにした。

 そして高速道路で都内へ向かっている最中、あの不幸な地震が起きた。道路沿いの街灯が激しく揺れていた。

 高速は他に入ってくる車が遮断されたのか、僕たちは比較的スムーズに帰宅できた。

 ピノコに助けられた気がした。

 

帰り道の車が走っていない高速

 

最終的にひびはここまで広がった

 

 

 長野では雪が山のように積もった。

 それをスコップで振り払ったりした。雪かきして、ピノコが走れるように道を作ったり。

 

リーゼントのように積もった雪

 

 色々と思い出深い。

 僕たちに余裕があるのなら、大きなガレージを用意してずっと飾っていたかった。けれど、別れを決めた。

 

 当初、父親に、「車をあげる」と言われても、僕たちはピノコに乗り続けようと思っていた。だけど、そんなある日、コインパーキングから出ようとしたときに、ガードレールにピノコをぶつけてしまった。

 実際、見晴らしもよく、ぶつけるようなところじゃない場所での出来事。妻は動揺した。ガードレールは無傷。でも、ピノコのバンパーが破損してしまった。

「これはダメかも」

 

破損したバンパー

 

 修理工場に画像を送って見積もりをお願いしたら十六万。

「父さんに車もらうことにしようか」

 

結局、ピノコはネットオークションで同型のバンパーを手に入れて、修理工場に持っていったら、作業代は一万五千円で済んだ。

 けど、今回の流れもきっと「何か」なのだろうと、ピノコとの別れを決めた。

 ピノコが教えてくれる。今がその時。

 けれど、別れるのは辛かった。

 誰か欲しい人はいないか、妻は兄妹に電話したが、僕たちのオンボロピノコは「大丈夫(笑)」と行き先が決まらず。

 結局、査定に出すことに。

 

所々に傷が目立ち始めて

 

 十年乗って、八万キロ走っている軽自動車だと値段つかないと言われたらしい。

 査定前に、感謝を込めて二人で洗車した。中を掃除機で吸い込み、雑巾で拭いた。

 

洗車場にて 

 

 三社に査定してもらい、結局二万二千円で引き取られることになった。

 査定のとき、

「この屋根の傷、なんですか?」

 僕たちはキョトンとして、屋根の上を見た。

 それは雪かきをしたときに出来た傷だった。気づかなかった。

 僕たちの思い出が、集約した形として存在している。

 

屋根の傷

 

「寂しいね」

 と妻が言った。僕もそう思った。

 

 誰かの手に渡り、また元気に走ってくれるといいなと思った。

 

 僕たちは玄関にピノコのミニカーを飾っている。

 宝物。

 

 

 

ミニカーピノコを、ピノコに乗せて最後のドライブ

 

ピノコとのお別れ。

ありがとう。