小説kinema

小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

金のことばかり考える

 だいたい、お金のことを考えてしまう。
 例えば、インテリアを見ているのが楽しいと考えたとき、ずっとこうやって楽しいことをしながら生きていたいなんて考える。そして、インテリアを見ているだけでお金になる方法はないものかと考えて、デザイナーになるとか、インテリアショップ店で働くとか、インテリアを写真にとってサイトを開いて、有料制にしてなんて幾つかを案を考えているうちに「そんなことをしたいんじゃない」って飽きてしまう。
 好きなことをお金に結びつけた途端に、嫌になる。
 けど、お金に結び付けないではいられない。
 そんなことをしているうちに何も達成できないまま、四十歳になってしまった。

 独身。実家暮らし。駐車場管理の営業職。小太り。
「つまんないな……」
 と、毎日呟いている気がする。

 家に戻ると、七十歳になる母親が手料理を出してくれる。父親は毎日、パチンコとカラオケスナックへ出掛けている。
「あんたもそろそろ家を出て、結婚でもしたら?」
 と、母親が言う。
「結婚は相手がいないと出来ないんだよ。それに、家にいたほうがお金使わなくていいじゃん」
 と、それらしいことを言って反論するが、言ったそばからいつも虚しくなる。

 仕事が楽しくない。毎日が楽しくない。心を許せる相手もいない。そんなこんなの原因は全て自分にあることも知っている。けど、他人のせいにしたいので、誰か知り合いを呼び出しては今の現状の文句を言ったりしていた。
「おかしいんだよな。こっちが苦しんでるのに誰も手をかさねぇんだからさ」
 助けてくれ。助けてくれ。そう訴えては、疎遠になっていく。
 それはそうだ。自分の不満のはけ口にした挙句、相手が自分に手を差し伸べないことを非難していたのでは、誰でも怒る。
 実際、親切な友人が真剣に取り合ってくれたりもした、けど、僕はそんな人に対しても、「そうじゃない」と、もっと、もっとと要求を繰り返した。
「自分を不幸だと思ってるみたいだけど、自分でそうしてるだけだろ」
 なんて言われて、みんな離れていった。

 僕は、それでも「自分でそうしているのは分かってるさ」と、気づいている振りをして、自分の勝手さと相手への配慮のなさには見ない振りをした。苦しいの僕のほうなんだと。そして、
「結局、金がないから馬鹿にしてるんだ」
 と、思った。何かしら成功をしたら、どいつもこいつも掌を返すくせに。と思っていた。
 お金のことを考えてしまう。

「お前もそろそろ家を出て、結婚でもしろ」
 と、パチンコに負けて帰ってきた父親に言われる。
 お金をすったから八つ当たりしてるんだと思った。

「僕が大して稼がないから、認めてないんだろ?」
 ふと、父親にそう反論していた。
「お前は、いつも稼ぎの話をするよな。俺はたいして稼いでこなかったが、そこまで卑屈じゃないぞ。今もすって来た」
「でも、僕が稼いできて楽とかしたいだろ?」
 そう、訊ねたとき、父親がポカンとした表情を浮かべた。
「……お前は勘違いしてるな」
「なにを?」
「稼いだら認めてもらえると俺が思わせたのかもしれないのかな……」
 父親が首を捻った。
 そこで僕も一度冷静になる。お金のことばかり考えてしまう。
 なぜ?
 父親も考える。僕も考える。
「お前、金に苦労したことでもあったか?」
「いや……逆に、いい大学までいけたし、感謝もしてる」
「稼いで欲しいと俺が言ったことあったか?」
「いや、早く出て行けとよく言われる」
「ふむ……じゃあ、いいよ稼がなくて。それなりで……と、言ってみるか」
 僕はドキリとした。何だか言われたくないことを言われた気分だった。

 僕はどうしていいか分からなくなり、ファミレスに行って四十歳なのにお子様ランチを頼んでみたが、断られドリンクバーと、オムライスを注文した。
 漠然と落ち込んでいる原因を考えた。でも、答えはずっと昔から知っていた。お金のせいにして、自分の弱さから逃げていたんだ。いつも。自信がない。お金がないから。やる気がない。給料が安いから。友達がいない。稼いでないから。結婚できない。お金持ちじゃないから。親孝行したい。お金をかけてもらってたから。
 都合いい、言い訳だと思ってたんだろうな。無意識に。いつしか意識的に。

 僕は貯金をはたいて、家を出ることにした。
 突然、そんなことを言い出した両親は少しだけ驚いた。
「どうしたの突然?」
「ま、金はあるし……」
 と、答えてみた。
 いい慣れない言葉に少しだけ、むずむずしていた。
 
 実際、それほど多く金はあるわけじゃなかったけど、「ま、そういうことじゃないし」と、思っていた。
 僕は、結婚して、子供を作って、お子様ランチを頼めるようになろうと計画を立てた。お金のことに結び付けそうになると、また、
「金はあるし……」
 と、呟いている。
 ま、ないんだけど。