奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

長編小説「ルチェルナのこと」

ルチェルナのこと 第三章・その①

三 水曜から日曜までホームセンターで働き、月曜日か火曜日に職安へ行く。 ホームセンターの給料は高くはなかったけど、特に不満はなかった。食事ができて、家賃が払えて、光熱費も払える。余計なものは買えなかったけれど、特にほしいものもなかった。 職安…

ルチェルナのこと 第二章・その②

僕達は一本道を抜けた車道沿いのガードレールに座り、自動販売機で買ったジュースを飲んだ。なぜ走っていたのか? なぜ泣いていたのか? 色々訊きたいことはあったのだけれど、黙っていた。 花火は終わったらしく、辺りは静けさを取り戻していた。 何台かの…

ルチェルナのこと 第二章・その①

二 僕はデザインの専門学校時代からホームセンターでバイトをしていた。商品の品出し、発注、接客が主な仕事内容。気がつけば卒業し、就職もせず、バイトを始めてから六年が過ぎていた。 瑞希が入ってきたのは、僕がバイトを始めて二年目ぐらいのときだった…

ルチェルナのこと 第一章・その②

◆ その夢は唐突でとても不自然だった。だけど、夢の中の出来事と言うのはなんであれいつもその世界の中に現実味を漂わせる。 僕は股間に布を巻いて、ふんどしを締めているような姿で、ほぼ裸の格好。虫取り網を持って立っていた。 夜で、月がてっぺんに浮か…

ルチェルナのこと 第一章・その①

一 瑞希が気まぐれで行動しているわけではないのは分かった。 彼女は熱中し始めると、途端に周りが見えなくなり、振り回す。今までだって、僕はずいぶんと付き合ってきたと思う。あるときは菓子職人になりたいと、書店で片っ端から菓子作りの本を買いあさり…