奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

掌編小説

足音

足音が増えた気がした。 帰り道、たまに一人になる時。 自分の足音しか聞こえなくなり、ふと立ち止まる。 コツン……。「……」 足音がふと、僕の足音より後に聴こえた。 僕の足音ではなく、また別の足音がコツンと。 振り向くと誰もいない。 心地好い静寂の中。…

芸術に癒される

酷く落ち込んでいたら上司に商店街の靴屋の前の柵を見に行けと言われた。「暫く眺めてこい」 街は、芸術家に解放を掲げ華やかだった。 所々に彫刻や、鉄で出来た複雑なオブジェが辺りを囲んでいた。 その靴屋の柵も芸術家によって温もりが与えられていた。「…

やめてる

昔はここら辺一帯でよく人がいなくなったらしい。 夜中に出掛けた男が帰って来ず、その次の朝に何故かモグラの死体が畑で見つかる。そんな昔話がある。 さすがに今では聞かないが、聞かないだけで実際は起きているのかもしれない。 二年前、夜中に畑の横を歩…

耳かき

アキが、家で耳かきをしながらふと思いついた。 この耳かきを隠してみよう。 深い意味は無く、何となくそうしてみたくなったのだ。 旦那のハルは耳かきが好きだ。好きだけどいつも何処かに置き忘れる。「耳かき知らない?」 と月に数回聞かれる。「知らない…

ウィスキーと赤ん坊

息子が生まれてから、義父は毎日うちへやって来くるようになった。 「ちょっとそこへ用事があったから」 などと、いちいち理由を付けてはウィスキーを飲み、赤ちゃんの横に座り、三十分ばかり眺めて帰っていく。 「たまたま貰ったから」 「多めに買っちゃっ…

東京三ヶ月

一人暮らしを始めて三ヶ月が過ぎた頃、僕は好きな場所を一つ見つけようと思った。 田舎の静岡では、よく自転車に乗って幾つかの本屋で立ち読みをした後、海沿いの道を通り、家へ帰った。 殆ど人がいない海岸。 海を囲む様に海岸から一定の距離を置き、防波堤…

あるコンビニバイトの夢

子供の頃の夢はなんだったっけと頭を過ぎり、横断歩道で立ち止まり、信号が変わるのを待った。 信号はなかなか変わらないまま、歩いてきた何人かが僕の周りで立ち止まった。 みんな立ち止まりる。夢なんか叶わない。そして考えるのを止めた。 僕は空を眺め、…