奥田庵

ほぼ気晴らしです。

掌編小説

ノーズソング。(ハミング)

君はギターを買ってもらったことがある。 けど、結局練習もしないで、飾りになっていた。 気が付けば、弟が勝手に使い始めたので、なんか腹立って、 友達に安く売った。 自転車に乗っていた時に出る鼻歌。 実は自分は凄いミュージシャンなんじゃないだろうか…

残骸。

公園のベンチには、もう人がいて、 ただ横切るだけ。 子供が、遊んでいた跡が目に留まった。 花びらを集めて、砂の山に乗せたりしていたような跡。 綺麗なものを集めて、そこで無計画な楽しみを模索する。 ああ、良いなぁ。 打算とか、売り上げとか、お客と…

大人。

花粉。 丁度いい日差し。 ウィルス。 心地いい風。 な、日。 浩紀は、コンビニのレジで自分の番が来るのを待っていた。 レジの店員は、新人らしく、隣の店員に教わりながらの作業。 若い女性の新人。中年女性のベテラン。 まあ、ここでイライラせずじっくり…

漠然。

炎上騒ぎでも起きたかのように、唐突に予約は減り、 キャンセル対応に追われている小さなレストラン。 今まで、忙しかった。 田舎に引っ越してきて、小さなお店を夫婦二人で始めた。 それほど忙しくなくていいから、のんびりと自分たちのペースでやっていこ…

一度だけ。

淳一は小学生の頃、一度だけ誕生日会を開いたことがある。 なんでそんなことをしたのかは忘れてしまったけれど、 実際に、やってみて、とても恥ずかしかったのを凄く覚えている。 母親の手作りの料理に、手作りのケーキ。 畳の部屋に、狭い家。 手作りという…

エイプリルフール。

四月。 雨。 二日間の休日を挟んでの出勤。 昨日までテレビで見ていた世界と、実際に体験している世界の差があまりにも違いすぎて、変な感じ。 この世の終わりのようなことばかり見せられた後に、 普通に、満員電車。 出勤。 日常。 実際、外に出ると、死ぬ…

行かなくてもいい。

会社なんか行きたくないのだ。 と、直人は思っていた。 それは別に、新型ウィルスで世間が外出自粛要請になって、 出歩く人が減っているからでなく、ただ単に、昔から働きたくないのだ。 どちらかと言えば、引きこもって、食べたいお菓子を食べて、妻の直美…

正義。

突如、街に、巨大人型宇宙生物が現れた。 「なんだ?」 「怪獣いねぇのに」 巨大、宇宙生物は、 「ジョア!」 と、一言、 その瞬間、新型ウィルスが世界から消えた。 「ジョア!」 次に、全人類に、お金と食料の分配と、人工知能を使った新しい社会システム…

雪。

カフェにて。 高齢者の男性の大きな声、 「こういう時に、人間の中身が試されるんだよ」 と、中年の女性に話していた。 そして、立ち上がると、 なぜか席の横で、体操を始めた。 「私はね、いつもこれをしているんだよ」 中年の女性は、 「いやー、今日は本…

元気で。

桜が散る。 さて、と思う。 世の中が混乱しているときに、 マスクをして、イヤホンをして、浅香唯の「GO! GO! 90'S」 をスマホでリピート再生で聴きながら、バスに乗り、電車に乗り、 会社に行き、仕事をして、帰宅する。 勿論帰りも、マスクをして、イヤホ…

後悔。

ウィルスが世界を襲い、 沢山の人が命を落とし、 ワクチンを完成させているという 大富豪による陰謀説が囁かれ、 楽しみにしていたコンサートは中止になり、 オリンピックは延期になり、 週末は外出の自粛要請が出て、 ネット占い師は「オリンピックがうまく…

小石。

理解されないことの悔しさを、どこにぶつけていいか分からない彼の横で、 僕は焦らず、言葉を探した。 けれど、言葉ではない気がした。 「……」 心が締め付けられるような寂しさを感じたいなんて思っていない。 どちらかと言えば、楽しいことを考えたい。 元…

興味。

「どうも心を閉じ込めているようだ」そのことに気がつかないまま日々が過ぎていた。 僕の中で切実さが失われていること。そのことについて、真剣に考える必要があることは分かっていた。けれども、実際に先送りにしていることは、ある意味、答えでもあった。…

大人。

留守番を頼まれた。 妹の子供が寝ているのだ。 僕は妹の子供が寝ているのを、横目で感じながら、 その静かな空間に、少しだけ戸惑っていた。 椅子に座り、窓を少し開け、カーテンが風で少し揺れる。 妹の子供は「あずさ」と言った。 二か月前に生まれたばか…

老人とミカン。

通勤途中、バス停へ行くまでの道に一軒家があり、 そこの庭の木にミカンがなっていた。 それをなんとなく眺めて、毎朝出勤。 すると、視線を感じる。 ビジッ。 何かが閉まる音。 次の日、またその家の前を通るとき、 見ると、ジッと二階の窓からこちらを見て…

食うか食われるか。

父親は真面目だった。 市営の博物館で事務をして働いている。 正英はそんな父親が嫌いだった。 真面目っていうのが、何かしら牙を抜かれた状態に見えたのだ。 ある日、正英は物置の奥から、古びた制服を見つけた。 裏地に虎の刺しゅう入りの制服。 不良が着…

求愛ダンス。

個人タクシーをやってるんですがね。 お客さんを乗せるでしょ。若い女性でしたよ。 で、走り出すじゃない。 するといつの間にか、 パラパラパラって、ラッパ鳴らしながらバイクが迫ってくるんすよ。 「いやー、お客さん、バイクってのはなんであんなうるさい…

歩道橋。

車が通らない道路がある。 歩道橋があり、誰も使わない。 車が通らないから、道路をそのまま横切ってしまうから。 その歩道橋に、最近一人の少年がよく佇んでいた。 十五歳ぐらいの少年。制服は着ていない。 チノパンにジャケットのラフな格好の少年。 私は…

やらない。

まず、負荷をかける。 そして身体に馴染むまで繰り返す。 そんな習慣を身に着けた悟朗は、沢山のことをこなすことが出来た。 と同時に、沢山のことが出来てしまうことがまた悩みだった。 お人好しの性格で、困っている人がいると、手助けしてしまう。 そして…

砂場。

大人が砂場を作ったから遊ぼうと、誘われた。「みんなの幸せのために作ったんだ」 と、大人が言う。 大人は、僕達が楽しそうに砂場遊びをしているのを眺めながら、「あれを作ってみよう」「こうしてみたら?」「そこを作りなおすとカッコイイよ」と、手助け…

私も。

朝子は、世界に出ていこうと、英会話を勉強。 英検三級に合格したころ、瞬時の同時翻訳が可能になった。 伝統の織物を学んで手に職をつけようとしたころ、その技術はすでに機械化が進んで、まともな収入が見込めなくなっていた。 その後も朝子が何かしらやろ…

呟く。

あれは爆破があった日。 彼は、逃げ遅れた女性を抱え、炎の海から救い出し命を繋ぎとめた。 その女性は彼にしがみつき、言った。 「ありがとう。好きです」 「結婚しよう」 そして、結婚した。 十年が過ぎた。 彼は広告会社で部長になっていた。 奥さんも好…

一瞬。

一瞬だけ、世界が微妙に変化している。 そのことに気づくのには、注意深さが必要なのである。 まさに、数秒前に、一瞬だけ「未来」にいることすらあるのだ。 けど、大体は気づかない。 ふと、子供の頃のことを思い出し、その情景がありありと思い出せてしま…

悪人の心理。

叔父さんはマンションの管理人をしていた。 たまに、悪いことする奴を見つけて、とりあえず管理人室へ来てもらい話さないと行けなかったりするらしい。 「まあ、話を聞くときには注意が必要なんだ」 と、叔父さんは言う。 例えば、 「世間に復讐してやる」 …

行為。

なにかしらにハマると人生は楽しいのではないかと勝晴は考えた。 けど、作品とか、人とかのファン的な要素とかではなく、 「行為」のようなものにはまりたいなと思った。 車をいじったり、自転車で遠くに行ったり、キャンプをしたり。 そういう、深みにハマ…

回復。

ひたむきさが輝けない時期があることは、誰だって知っている。ただ、そういう時にすら、ある種の正気さを保とうとする努力を、僕は愛おしく思う。 漠然と「何か」に苦しむ。そういう時期があることは、誰だって知っている。 あまり、主張せず、静かな場所で…

てんとう虫。

てんとう虫を見つけた。 歩道橋を上り切った場所で。 スマホで写真を撮った。 撮った後、誰かに見られてないよなって辺りを見た。 なんか恥ずかしいから。 「あ」 と思って、 パシャッと撮って、 ネットに載せてとか。 恥ずかしいなぁ。 と、思いつつ。 やっ…

早いもので。

俊平は体の不調を感じていた。 歳も取ってきたし、運動もしていない。 筋トレでもしたほうがいいかもとか思う。 ということで、立ち上がって、スクワットみたいなことを七回ぐらい。 で、疲れる。 「よし……」 肩を回そうと、内側から外へ円を描くようにグル…

独り言。

独り言の多い藍子は、無意識に色々なことを口にする。 「チャーハン冷凍の買わなきゃ」 「白髪が出てきた」 「甘いもの食べたい。でも太る」 「おらなしちゃった」 隣の部屋に住む、正孝はよく窓を開けて、藍子の独り言を聴きながら、夕涼みをしていた。 二…

2019年に微熱。

昭二は目立たない男だった。 2019年の12月に体調を崩した。 忘年会の次の日からぐったりとしてだるい。 ゴホゴホと咳が止まらず。 マスクしたまま出勤。 それが一週間続いた。 インフルエンザだとマズいなぁと思い、病院へ行った。 散々待たされ、熱を測って…