小説kinema

小説だったり、映画だったりの作業スペース。散らかってます。

掌編小説

待つ。

あまり強くない雨が降っていた。 僕は慌てて、駅前に停まっていたバスに乗車した。 外はもう暗くなっていて、車内の灯りが少し強く感じた。 ある程度、座席は乗客で埋まっていたが、まだ座れる余地がある。 僕は一番後ろの席に座り、バスが発車するのを待つ…

浦島津太郎

一昨日、お爺ちゃんが死んだ。 数日後、街を歩いていると、そのお爺ちゃんが歩いていた。「え?」 僕は慌てて追いかけたけれど見失った。 きっと見間違いさと、気にするのを止めてまた街中を歩いてたら、フラフラと挙動不審な老人が歩いていた。 なにやらブ…

実験結果

脳研究の発展にともない、犯罪者がなぜ短絡的な犯行を繰り返すのかが明らかになってきた。 本来、成長により伸ばされるべき脳内の一部が未発達であったり、先天的にその部分が弱かったりすることによるのが原因。 それらは理論的に、最新技術を使えば修正が…

往年のアイドル

黄昏時というものを自覚する必要があるというのなら、もしかしたら今なのかもしれないと、十二月後半の寒空の下、考えていた。 髪を二ヶ月も切っていなかったことを知ったのが昨日だった。些細な片鱗。「ただうっかり」というものであるなら、特に気にする必…

ギャル

僕はあなたを忘れていません。 忘れたくても、いつも夢に出てくるのです。もう、いいだろうと思っていても、あなたは出てくるのです。 だから、私はあなたを忘れていません。 娘が年頃になり、恰好が真面目とは程遠い「ギャルファッション」になっていて、僕…

バイオリン

バイオリンをやりたいと言ったのは私自身だった。 だけど、練習は嫌いだった。 小学五年生になり、自分的には随分と大人なつもりでいた。楽器を始めるには遅すぎた気もしていたのだけれど、自分だけは違うと思っていた。 私はバイオリンを手にした時点で既に…

蒸し暑いわ

清掃控え室のエアコンが壊れた。 七月に入り、何度か雨の日が重なった。湿度が高い。 蒸し暑い。 清掃員の登喜子は最近お洒落に興味が持てなくなっていることに気づいていた。安いシャツでいい。化粧なんかしなくていい。 そんな思いの積み重ねで、気がつけ…

灰色

昨日のうちに雨は上がっていた。 四月も後半になり、暖かい日も増えてきた。けど、今日は少し肌寒かった。「選択肢は少ないほうがいい」 先輩に言われ、その言葉が頭の中でこびりついて離れない。 なぜだろう。その言葉について考えていると、余計なことばか…

金のことばかり考える

だいたい、お金のことを考えてしまう。 例えば、インテリアを見ているのが楽しいと考えたとき、ずっとこうやって楽しいことをしながら生きていたいなんて考える。そして、インテリアを見ているだけでお金になる方法はないものかと考えて、デザイナーになると…

僕がいる間にも何人かが辞めていった。 残っている数人は、辞めていった人たちを馬鹿にした。「全然もたなかったな」とか「根性が無い」とか「最初からそんな気がしてたんだ」とか言った。 僕は聞きたくもない、その会話を耳にしながらクズだなと思っていた…

ちょっとそこ

「あいつがいないところへ行きたい」 と、彼女が言ったので僕たちは取りあえず行先も決めず特急電車へ乗り込んだ。 あいつとは彼女の父親だった。 癇癪持ちで、反論すると大声で威嚇してくる。 単純にめんどくさい人物であるのは誰の目にも明らかなので、友…

予兆

馬がうんちするのを眺めながら、僕もそろそろだなと思った。 「この馬、何で飼ってるんですか?」 「さあ、弟が飼ってんだよ。よく知らね」 と、馬に干し草をあげているおじさんが言った。 田舎はみんな車で移動するので、ほとんど誰とも合わない。けど、子…

いじめてた

山ちゃんの家は貧乏だった。 まだ僕が幼い頃、山ちゃんと遊んだ記憶がある。 遊んだというか、正確に言えば「いじめていた」のかもしれない。 小学生に入る前。僕は五歳ぐらいだったのかな。 山ちゃんは一つ下だったのか、年下で、あまりきれいとは言えない…

ばあちゃんのタトゥー

ばあちゃんの事は好きでも嫌いでもなかった。 夏休みに神奈川のばあちゃんの家へ行った。 両親は、荷物を置くと、早々に海へ行くのだと車で出かけた。私も来ないかって言われたけれど、「行かない」って言うと、それ以上強引に誘われなかった。 だいたいにお…

整理の仕方

頭の中が騒がしくて、なにも集中できなかった。 例えばそれは、散らかりすぎた部屋の中のようで、どこから手を付けていいのか考えているうちに、結局、どこも片付けることがせず、タダ時間が流れていくような感じ。 インターホンが鳴った。 僕の部屋へ訪ねて…

孤独死させません

老後を一人で過ごす老人の数が急増した。 そして孤独死を恐れるあまり、暴走する老人も増え社会問題になっていた。「罪を犯せば手厚い介護が受けられる」 まことしやかに、ささやかれた噂。 体が不自由で、身動きが出来ない老人。世間の介護費用は年々と高く…

毎年と春の訪れ。

四月も半ばになり、悩まされてた花粉が収まって来た。鼻炎薬で鼻水は抑えることはできるのだけれど、この一か月の間、頭が朦朧として目の奥がジンジンと痛み、喉は唾を飲み込むのさえ苦痛だった。バファリンを飲み、風邪薬を飲み、出来るだけ睡眠をとるよう…

季節

九月の終わり。 一週間前まであんなに暑かったのが、今日は肌寒さすら感じる。 歩道の枯れ葉が、街の色合いに変化を与えている。歩くたびに「カシャリ」と耳に残る枯れ葉の音。風と移動する音。 僕は、ひたすら汗を拭い営業を回った猛暑日の影響で、自律神経…

ストレス休暇

「今日、お休み頂きたいのですが」 駅近くの商店街を抜けた先にあるファミレスのトイレで彼は会社に電話を入れ、休暇をとった。 彼は会社で嫌な事が続いてると思っていた。 例えば、女子社員が目を合わせてくれなかったり、部下が反攻的だったり、上司に評価…

四日目

あの車があそこに駐車されてから四日が過ぎた。 二年前にも、他県ナンバーの車が駐車され、 一年近くそこに停まってた。 一度近づいて覗いたら、ゴミだらけの車内から、髭だらけの半裸のオジサンが奇声をあげて出て来て追いかけてきた。「こえ~!」 と、ビ…

犬だが

犬になって一年が過ぎた。 なにも犬になろうと思ってなった訳じゃなく、ある日突然犬だったのだ。 最初は戸惑った。 こんなの自分じゃないと訴えたかったがどうも「今日は様子がおかしいね」と思われるぐらいで、全く通じない。 ドッグフードを出され屈辱な…

駐車場で

田舎のコンビニの駐車場が待ち合わせ場所だった。 相手が車で来るのを僕が待つ。 話の発端は、会社の同僚の女性に僕が告白しようと、簡単な手紙を書いた事から。 手紙には、時間を作って欲しいと書き、僕の携帯番号を書き添え、彼女のデスクの本の間に挟んだ…

足音

足音が増えた気がした。 帰り道、たまに一人になる時。 自分の足音しか聞こえなくなり、ふと立ち止まる。 コツン……。「……」 足音がふと、僕の足音より後に聴こえた。 僕の足音ではなく、また別の足音がコツンと。 振り向くと誰もいない。 心地好い静寂の中。…

芸術に癒される

酷く落ち込んでいたら上司に商店街の靴屋の前の柵を見に行けと言われた。「暫く眺めてこい」 街は、芸術家に解放を掲げ華やかだった。 所々に彫刻や、鉄で出来た複雑なオブジェが辺りを囲んでいた。 その靴屋の柵も芸術家によって温もりが与えられていた。「…

やめてる

昔はここら辺一帯でよく人がいなくなったらしい。 夜中に出掛けた男が帰って来ず、その次の朝に何故かモグラの死体が畑で見つかる。そんな昔話がある。 さすがに今では聞かないが、聞かないだけで実際は起きているのかもしれない。 二年前、夜中に畑の横を歩…

耳かき

アキが、家で耳かきをしながらふと思いついた。 この耳かきを隠してみよう。 深い意味は無く、何となくそうしてみたくなったのだ。 旦那のハルは耳かきが好きだ。好きだけどいつも何処かに置き忘れる。「耳かき知らない?」 と月に数回聞かれる。「知らない…

ウィスキーと赤ん坊

息子が生まれてから、義父は毎日うちへやって来くるようになった。 「ちょっとそこへ用事があったから」 などと、いちいち理由を付けてはウィスキーを飲み、赤ちゃんの横に座り、三十分ばかり眺めて帰っていく。 「たまたま貰ったから」 「多めに買っちゃっ…

東京三ヶ月

一人暮らしを始めて三ヶ月が過ぎた頃、僕は好きな場所を一つ見つけようと思った。 田舎の静岡では、よく自転車に乗って幾つかの本屋で立ち読みをした後、海沿いの道を通り、家へ帰った。 殆ど人がいない海岸。 海を囲む様に海岸から一定の距離を置き、防波堤…

あるコンビニバイトの夢

子供の頃の夢はなんだったっけと頭を過ぎり、横断歩道で立ち止まり、信号が変わるのを待った。 信号はなかなか変わらないまま、歩いてきた何人かが僕の周りで立ち止まった。 みんな立ち止まりる。夢なんか叶わない。そして考えるのを止めた。 僕は空を眺め、…