奥田庵

小説だったり、映画だったり。犬だったり。

掌編小説

嘘友人代表。

人気のない道に入ると、あの子が立っていた。 私は見なかった振りをして、引き返そうとすると、全速力でこっちへ走ってきた。 私も走った。 追いかけてくるあの子。 逃げる私。 「待って!」 「やだ!」 「悪いことしないから、待って!」 逃げる私、追いか…

単一電池。

畑から、単一電池が顔をのぞかせ、 「ボクはもうすぐ捨てられるんだ」 電流があるうちに逃げてきたんだ。 と。 「どこに逃げるんだい?」 「充電ができるところさ。君も一緒に行こうよ」 充電ができるところといえば湯河原しか思い浮かばなかった。 湯河原の…

花粉症。

どう書けばいいのだろう。 僕はその知人のことを尊敬していた。 不器用だけれど、誠実であろうとする姿も見てきていたし、今までは何かの間違いで、報われないことも多かったかもしれないけれど、きっと成功を掴むのではないかと期待していた。 しかし、彼が…

訓練。

斜め前に親子らしき客が座っていた。時間を見ると深夜である。 母親と息子。母親らしき女性は少し小太りで、地味なセーターに地味なスカート、地味な髪型で、地味な顔つきをしていた。息子らしき少年も地味なシャツに地味な短パン、地味な坊主頭だった。 そ…

コンビニバイト。

この前、田舎へ帰った時、昔バイトしていたコンビニの前を通った。 もう、閉店していて店は無かった。 深夜の一人勤務。実際に夜中にひとりで働かせるのは違反だかなんかで、いけないようなのだけど、店舗の二階に店長家族が住んでいて、「呼べばすぐ来る」…

死ぬこと。

十月も中旬になり、突然寒くなった。 前日冷房をつけるぐらいの暑さだっのに、今日は暖房が必要になった。 気温差二十度。 気温差十度以上あると、うつ症状の人が増えると、どこかで聞いた気がする。 太陽の光を浴びないと、心が乱れると聞いた気がする。 そ…

かまってちゃんの罠。

十二月だというのに、まだ暖かい日が続いていた。 早めに家を出てしまったので、仕事が始まる前に公園で少し時間を潰した。 ベンチの横で、自転車の手入れをしている中年のおじさんがいた。 僕は特に気にせず、ベンチに腰かけた。 ベンチの右隅に、黒い手袋…

受付の熊谷さんはおかしなことを言う

九月もそろそろ終わりに近づき、少しずつ涼しくなってきた。 私はまだ、相変わらず、「病の中」にいる。 息子が事故で亡くなってから、そろそろ二年になる。 四歳だった。 随分と、取り乱すこともなくなったし、日常生活に悲しみを持ち込むようなことも無く…

待つ。

あまり強くない雨が降っていた。 僕は慌てて、駅前に停まっていたバスに乗車した。 外はもう暗くなっていて、車内の灯りが少し強く感じた。 ある程度、座席は乗客で埋まっていたが、まだ座れる余地がある。 僕は一番後ろの席に座り、バスが発車するのを待つ…

浦島津太郎

一昨日、お爺ちゃんが死んだ。 数日後、街を歩いていると、そのお爺ちゃんが歩いていた。「え?」 僕は慌てて追いかけたけれど見失った。 きっと見間違いさと、気にするのを止めてまた街中を歩いてたら、フラフラと挙動不審な老人が歩いていた。 なにやらブ…

実験結果

脳研究の発展にともない、犯罪者がなぜ短絡的な犯行を繰り返すのかが明らかになってきた。 本来、成長により伸ばされるべき脳内の一部が未発達であったり、先天的にその部分が弱かったりすることによるのが原因。 それらは理論的に、最新技術を使えば修正が…

往年のアイドル

黄昏時というものを自覚する必要があるというのなら、もしかしたら今なのかもしれないと、十二月後半の寒空の下、考えていた。 髪を二ヶ月も切っていなかったことを知ったのが昨日だった。些細な片鱗。「ただうっかり」というものであるなら、特に気にする必…

ギャル

僕はあなたを忘れていません。 忘れたくても、いつも夢に出てくるのです。もう、いいだろうと思っていても、あなたは出てくるのです。 だから、私はあなたを忘れていません。 娘が年頃になり、恰好が真面目とは程遠い「ギャルファッション」になっていて、僕…

バイオリン

バイオリンをやりたいと言ったのは私自身だった。 だけど、練習は嫌いだった。 小学五年生になり、自分的には随分と大人なつもりでいた。楽器を始めるには遅すぎた気もしていたのだけれど、自分だけは違うと思っていた。 私はバイオリンを手にした時点で既に…

蒸し暑いわ

清掃控え室のエアコンが壊れた。 七月に入り、何度か雨の日が重なった。湿度が高い。 蒸し暑い。 清掃員の登喜子は最近お洒落に興味が持てなくなっていることに気づいていた。安いシャツでいい。化粧なんかしなくていい。 そんな思いの積み重ねで、気がつけ…

灰色

昨日のうちに雨は上がっていた。 四月も後半になり、暖かい日も増えてきた。けど、今日は少し肌寒かった。「選択肢は少ないほうがいい」 先輩に言われ、その言葉が頭の中でこびりついて離れない。 なぜだろう。その言葉について考えていると、余計なことばか…

金のことばかり考える

だいたい、お金のことを考えてしまう。 例えば、インテリアを見ているのが楽しいと考えたとき、ずっとこうやって楽しいことをしながら生きていたいなんて考える。そして、インテリアを見ているだけでお金になる方法はないものかと考えて、デザイナーになると…

僕がいる間にも何人かが辞めていった。 残っている数人は、辞めていった人たちを馬鹿にした。「全然もたなかったな」とか「根性が無い」とか「最初からそんな気がしてたんだ」とか言った。 僕は聞きたくもない、その会話を耳にしながらクズだなと思っていた…

ちょっとそこ

「あいつがいないところへ行きたい」 と、彼女が言ったので僕たちは取りあえず行先も決めず特急電車へ乗り込んだ。 あいつとは彼女の父親だった。 癇癪持ちで、反論すると大声で威嚇してくる。 単純にめんどくさい人物であるのは誰の目にも明らかなので、友…

予兆

馬がうんちするのを眺めながら、僕もそろそろだなと思った。 「この馬、何で飼ってるんですか?」 「さあ、弟が飼ってんだよ。よく知らね」 と、馬に干し草をあげているおじさんが言った。 田舎はみんな車で移動するので、ほとんど誰とも合わない。けど、子…

いじめてた

山ちゃんの家は貧乏だった。 まだ僕が幼い頃、山ちゃんと遊んだ記憶がある。 遊んだというか、正確に言えば「いじめていた」のかもしれない。 小学生に入る前。僕は五歳ぐらいだったのかな。 山ちゃんは一つ下だったのか、年下で、あまりきれいとは言えない…

ばあちゃんのタトゥー

ばあちゃんの事は好きでも嫌いでもなかった。 夏休みに神奈川のばあちゃんの家へ行った。 両親は、荷物を置くと、早々に海へ行くのだと車で出かけた。私も来ないかって言われたけれど、「行かない」って言うと、それ以上強引に誘われなかった。 だいたいにお…

整理の仕方

頭の中が騒がしくて、なにも集中できなかった。 例えばそれは、散らかりすぎた部屋の中のようで、どこから手を付けていいのか考えているうちに、結局、どこも片付けることがせず、タダ時間が流れていくような感じ。 インターホンが鳴った。 僕の部屋へ訪ねて…

孤独死させません

老後を一人で過ごす老人の数が急増した。 そして孤独死を恐れるあまり、暴走する老人も増え社会問題になっていた。「罪を犯せば手厚い介護が受けられる」 まことしやかに、ささやかれた噂。 体が不自由で、身動きが出来ない老人。世間の介護費用は年々と高く…

毎年と春の訪れ。

四月も半ばになり、悩まされてた花粉が収まって来た。鼻炎薬で鼻水は抑えることはできるのだけれど、この一か月の間、頭が朦朧として目の奥がジンジンと痛み、喉は唾を飲み込むのさえ苦痛だった。バファリンを飲み、風邪薬を飲み、出来るだけ睡眠をとるよう…

季節

九月の終わり。 一週間前まであんなに暑かったのが、今日は肌寒さすら感じる。 歩道の枯れ葉が、街の色合いに変化を与えている。歩くたびに「カシャリ」と耳に残る枯れ葉の音。風と移動する音。 僕は、ひたすら汗を拭い営業を回った猛暑日の影響で、自律神経…

ストレス休暇

「今日、お休み頂きたいのですが」 駅近くの商店街を抜けた先にあるファミレスのトイレで彼は会社に電話を入れ、休暇をとった。 彼は会社で嫌な事が続いてると思っていた。 例えば、女子社員が目を合わせてくれなかったり、部下が反攻的だったり、上司に評価…

四日目

あの車があそこに駐車されてから四日が過ぎた。 二年前にも、他県ナンバーの車が駐車され、 一年近くそこに停まってた。 一度近づいて覗いたら、ゴミだらけの車内から、髭だらけの半裸のオジサンが奇声をあげて出て来て追いかけてきた。「こえ~!」 と、ビ…

犬だが

犬になって一年が過ぎた。 なにも犬になろうと思ってなった訳じゃなく、ある日突然犬だったのだ。 最初は戸惑った。 こんなの自分じゃないと訴えたかったがどうも「今日は様子がおかしいね」と思われるぐらいで、全く通じない。 ドッグフードを出され屈辱な…

駐車場で

田舎のコンビニの駐車場が待ち合わせ場所だった。 相手が車で来るのを僕が待つ。 話の発端は、会社の同僚の女性に僕が告白しようと、簡単な手紙を書いた事から。 手紙には、時間を作って欲しいと書き、僕の携帯番号を書き添え、彼女のデスクの本の間に挟んだ…