奥田庵

楽しんで書ける場所が欲しいなって、ここにひっそりと、僕の遊び場を作った感じです。小説的体調管理。自由。

他人に気に入られたいと思う気持ちと、まあ、いいやと思う間のとき。

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「他人に気に入られようと思うと、色々なことが分からなくなる」

 

と、仲の悪い妹が言った。

 

「それは結局、他人が何を考えているかなんか分からないからなのだけれど、それを理解しつつ、どうしていいか分からなくなって、混乱して、苦しくなる」

 

僕は何も言わず、妹の話の続きを待った。

 

「なので、他人になんか気に入られなくたっていいや。なんて思ったりするのだけれど、そんなことを思ったとしても、結局、解決にはならない」

「他人って誰?」

「分からない。漠然とした、誰か」

 

それじゃ、どうしようもないよ。と言いたかったが、言わなかった。

妹もそんなことは分かっているのだろう。

 

僕は、安売りで買った炭酸水を冷蔵庫から二つ取り出し、一つ妹に渡した。

 

「そういう時は、一人で出かける。そして、大勢いる人を眺められる場所に行って、好きな音楽を聴くといい」

と、僕なりの解決策を提案した。

 

「その根拠は何?」

「根拠はない。僕がそうしてるから。それだけ」

「なんでそうするの?」

「大勢の人が、僕なんか気にしないで、通り過ぎていくのが心地よくなるんだ。そして、BGM付きで一人一人を眺めていると、なんだか、他人に受け入れられたいなんて思う、自分について少しだけ照れたりする」

「なにそれ?」

「それに、他人に受け入れられたい、なんて思っている人について考えたりするんだ。そういう人は嫌いじゃない」

「私は?」

「嫌いじゃない」

 

僕がそういうと、仲が悪い妹は、少しだけ安心したような表情を浮かべ、炭酸水を口にした。

 

「炭酸を飲んでゲップでもするといいよ。気が紛れるから」

僕がそう言うと、妹は少し不機嫌そうに僕を見て、部屋を出ていった。

 

まあ、仲が悪いのだ。

それでいい。

 

 

 

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寂しさの音。

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寂しい時の儀式。

一人で、ゴムボールを壁に向かって投げる。

 

そんな子供時代を過ごしていた少年は、大人になった。

いまだに、寂しいなぁと感じると、一人部屋に閉じこもり、ゴムボールを壁に向かって投げる。

人気のない公園や、海辺の防波堤なんかでも投げる。

 

別にゴムボールを投げたから、どうにかなるというわけではなく、ゴムボールを投げることにより、自分の寂しさを回復させてきたという自信に頼っているみたいなところがある。

 

大丈夫。いつも、これで納めてきたじゃないか。

寂しさは通り過ぎ、また、僕はそれなりにうまく振舞うことが出来るだろう。

壁に投げる。ワンバウンドして、自分の手のひらに戻る。

 

ボンっ、パっ、プっ。

と、そのリズムを出すことに集中していく。

気が逸れると、軌道が変わる。音も変わる。

 

たまに距離を変える。

そうすると、

ボンっ、パっ、プっ。

の音を出すまでに、また少し意識を集中することになる。

 

そのことは誰にも言ったことがない。

別に言う必要もないし、誰かに理解してもらおうとも思っていなかった。

 

「この前ボール投げてましたよね。そこの駐車場の裏で」

「え?」

いつも立ち寄る、コンビニの女性店員に声をかけられ、動揺した。

 

「はい、投げてました」

「あれって、すんごい、リズミカルに壁、地面、手のひらって、結構なスピードで」

「あ、ええ」

「なんかの練習なんですか?」

寂しいからなんて言えない。

「いや、ただ、投げたくなって、得意なんです」

「スゴーイ、今度あの投げ方、教えてくれません?」

「え? ええ」

 

帰宅途中。ドキドキした。

すぐ好きになってしまう。

 

「教えるって……」

練習しなきゃと、壁に向かってボールを投げた。

ドンっ、パシッ、コロコロ……。

ボンっ、コロコロ……。

 

いつもの音は出ない。

けど、顔はにやにやが収まらなかった。

 

あまりに、いつも通り投げられなくて、「寂しさ」がなんだったのか分からなくなっていた。

こんな気持ちでボールを投げたことはなかった。

その日は、夜明けまでボールを投げ続けた。

 

 

寂しさの先。

 

 

 

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ダメ。ではない。

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余計なことを考えると、ダメになる。

じゃあ、余計なことを考えないようにしようとすると、またダメになる。

 

ダメになるとは、

「ああ、これじゃ、ダメだなぁ」

と、思ったりすることである。

 

では、「ああ、これじゃ、ダメだなぁ」と思わないようになるには、と、また考える。そして、それが余計なのだと、またダメになる。

 

なので、食う。

で、ああ、ダメだなぁと思う。

 

少し休む。

ああ、ダメだなぁと思う。

 

いや、だから、そもそもダメではないのである。

考えようが、考えまいが、食おうが、寝ようが、ダメではないのである。

ただ、「何か」が足りていないという、怯えである。

ということは、まず、「ダメだなぁ」ということに対し、意識的に「ダメではない」ということを知ることが大事なのである。

 

まあ、なんでもいいのである。

けど、なんでもいいと思うことが怖いということである。

 

つまり、自分への信頼。他人への信頼というものが、出来ていない状態であるということでもある。

 

まず、余計なことを「考え」つつ、その中身が「考えなし」の状態であり、かつ、食後で、横になりつつ、「何か」か「足りてないわけではなく」、ダメではないと信じられるもの。

 

なんだ。

 

考える。余計なことだけど。

ふと、散歩中に見た、老犬を思い出した。

通り道の外飼いの犬。昔はよく吠えていたが、最近は、腰も曲がり、元気がない。あまり吠えない。大丈夫かなぁと心配になる。

ある日、その犬がいる道の近くで「ほぉぁぁ~んぅぅ」と、甘えた遠吠えが、聴こえた。

見ると、その老犬が、腰を曲げつつ、プルプルと一生懸命、ウンチをしていた。

 

「おっ」

 

と、思った。

で、「そうか」と思ったんだよな。

 

うむ、ダメじゃない。

 

 

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ポジション。

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電車が駅について、ドアが開くと、作業員が四人入ってきた。

それぞれが、無言。視線も合わさず、距離を開けている。

 

電車の中は空いていた。

僕は、座席の隅でスマホをいじりながら、その四人をなんとなしに観察した。

 

全員が青いツナギ。

それぞれが、清掃道具を手にし、立っている。

年齢はバラバラ。

男三人。女子一人。

若い。中年。高齢。おばちゃん。

の四人。

 

特に仲が良さそうな気はしない。

あまり知り合いでもないのかもしれない。

当日、集まったメンツで、その日に言い渡される仕事を任されているパターンかもしれない。そういう仕事は僕も昔よくしていた。

引っ越しとか、看板持ちとか、清掃とか。

 

別に嫌っているわけでもないけれど、仲良くなるにしては時間が短すぎる。連絡先を教えあうほど距離を詰めたとしても、その後付き合える気もしない。

 

よく見ると、「若い」は外を見ていて、「中年」は車内広告、「おばちゃん」は若いとは反対側の外。で、「高齢」だけは、その三人に身体を向けている状態で、斜め下を見ていた。

 

なにかタイミングを探しているように見えなくもない。

「高齢」は頭にタオルを巻いている。

そこに、三人との温度差を感じ、少しだけ「ポジション」を求めている雰囲気があった。

 

もしかしたら、既に「高齢」が、前の現場で、三人に対し、威圧的な態度をとってしまって、このメンバーの中で、冷戦が行われている最中なのかもしれない。

そして、次の現場に移動するまでに、「高齢」は、その失敗を取り戻したいのだけれど、そのタイミングがつかめない状態での、この距離感なのかもしれないなと。

 

まあ、想像だけど。

なんだか、そう思うと、何かしら励ましたいと思わなくもない。

けど、僕にできることはない。

 

なので、僕はイヤホンをつけ、

スマホで、浅香唯の「GO! GO! 90'S」を聴き始める。

 

時空を飛び越え、80年代のアイドル浅香唯が歌う。

 

____ 負けないで、夢の重さにも。虹を掴んでね、走る君が好き ___

 

それを聴きながら、少しだけ「高齢」の方を見た。

虹を掴んでね「高齢」。

と思った。

 

今日も暑い。

 

 

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暗黙のルール。

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久しぶりにいく喫茶店

三ヵ月前までは、週五で通っていた店。

 

色々あって、しばらく足が遠のいていた。

週五で通っていた時になんとなく暗黙のルールがあった。

 

アイスコーヒーを注文。

お金を払い、お釣りをもらう。その際に、レシートはつけない。

この「レシートをつけない」がルール。

店のおばちゃん店員と無言で決められた約束。

 

レシートがつくと、お釣りを財布に入れ、そして、レシートを「レシート不要の方はこちら」と書かれた小さな箱に捨てる。

この箱が小さいので、うまくレシートを入れられない。ペランと折れたり、はみ出たりして、ちょいイラっとする。

いつからか、おばちゃんは何も言わず、レシートを渡さないようになった。

僕も何も言わずそれを受け入れた。

 

そして、アイスコーヒーを手にして、隅っこの席に座る。

そこで約四十分ボケーっとする。

 

それが、この店と僕との日常であり、距離感。

たまに臨時のおばちゃん店員が来て、レシートを渡されるときがあると、少し落ち込む。何か悪いことが起きる予兆ではないかと心配する。

ペランペランと、レシートは箱に入らず、イラっとする。

少し、おばちゃんを見くびり、でも、知らないんだからしょうがないじゃないか、一生懸命仕事しているのだから。と、自分をなだめる時間を消費する。

 

むむ。

 

で、久々の喫茶店

軽く緊張。けど、いつもの顔で。来てますよね、毎日。

みたいな雰囲気で入る。

で、いつものおばちゃん。

けど、三ヵ月ぶりである。日常会話はない。それもルール。

「アイスコーヒーを」

と、言う。

僕はお金をトレイに置き、

おばちゃんはお釣りをトレイに置く。

勿論、レシートはなし。

サッと出されるアイスコーヒー。

 

密かに心で「おおっ」と思う。が、何も言わない。

でも、会話は出来ているのである。

素晴らしい。と、心で思い、隅っこに行き、ボケーっとする。

三ヵ月か。

夏の匂いがする。