奥田庵

ほぼ気晴らしです。

ここ。

 

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思春期の頃の苛立ちは、いつしか消えていた。

 

それは、僕が大人になっていたからなのかもしれない。

怒りを抱えるほど、制約を受けていない状態に、

自由になっていることにも気づいた。

 

不自由になる罠は、実際には思春期を超えた後に密かに絡みついてくる。

しかし、それらは強制力があるものでは決してない。

慎重に見極めること。時には運を味方につけること。

自らを苦しくさせていた呪いを解くこと。

 

それは、片っ端から反抗することではなく、観察することが何より大事だった。

 

不器用な生き方は、経験値を重ねることにより、

不可解なものの正体に気づき、そこから離れることが出来るようになる。

それらはなくなることはない。

けれど、時々感じることは可能である。

 

「ここは素晴らしい」

 

と。

 

 

ノーズソング。(ハミング)

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君はギターを買ってもらったことがある。

けど、結局練習もしないで、飾りになっていた。

 

気が付けば、弟が勝手に使い始めたので、なんか腹立って、

友達に安く売った。

 

自転車に乗っていた時に出る鼻歌。

実は自分は凄いミュージシャンなんじゃないだろうかと思ってみたり、

バンドを組めば、誰かが演奏してくれて、君は鼻歌で伝えれば、実際凄いことになってしまうんじゃないかって想像したり。

 

カラオケに行き、大声で歌うことに酔いしれて、

刀を研いでいるのさと、気持ち良くなる。

今は準備中。準備中。

 

一人部屋にこもって、作曲しているネットミュージシャンの映像を眺めたり、

通り過ぎる駅前で歌っている人のオリジナルソングに耳を傾け、

飛び入りしたら、意気投合して、認められるかもと考えたり。

 

けど、君は何もしない。

鼻歌が、楽譜になるアプリでも発明したら世界中で大ヒットして儲けられるかもと考える。

君が欲しかったものさと考える。

けど、実際そんなものはちょっと調べればゴロゴロあって。

それを使うかと言えばもちろん、使わない。

 

鼻歌を歌う。

名曲が出来たと君は思う。

 

心はロックだと。

ただ音楽を楽しむ。

それも素敵なことさと君は言う。

 

 

 

残骸。

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公園のベンチには、もう人がいて、

ただ横切るだけ。

 

子供が、遊んでいた跡が目に留まった。

花びらを集めて、砂の山に乗せたりしていたような跡。

 

綺麗なものを集めて、そこで無計画な楽しみを模索する。

ああ、良いなぁ。

 

打算とか、売り上げとか、お客とか、評判とか、頭の良さとか、報酬とか、ノルマとか人間関係とか感じられないもの。

そして、放り投げた後の美しさ。

楽しさの残骸。

 

色々余計なものを削ぎ落せないだろうか。

桜の花びらが散る。その自然。

沢山の便利と、余計な我慢。

 

曇り空と青空の融合。

 

そんな日曜日。

 

 

大人。

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花粉。

丁度いい日差し。

ウィルス。

心地いい風。

 

な、日。

 

浩紀は、コンビニのレジで自分の番が来るのを待っていた。

レジの店員は、新人らしく、隣の店員に教わりながらの作業。

若い女性の新人。中年女性のベテラン。

 

まあ、ここでイライラせずじっくり待つのが大人さ。と浩紀は心を静める。

「そう、そしたらそれ押して、で、そっち」

「あ、あ、はい」

「で、これを渡して、」

「え、あ」

「はい。ありがとうございましたは」

「ありがとうございました」

「って、お客さんによ。もうねー」

と、お客に愛想笑いのベテラン。

 

で、浩紀の番。

と、「長谷川さんー」

「はいー、ちょっとお願いね」

そのベテランが呼ばれてバックヤードに下がった。

待つのかなって思ったら、その新人さん。

ピピピッ。

「483円になります」

「あ、ペイペイで」

と、スマホを出すと、すぐにピッ。「ペイペイ」とスマホが言う。

「レシートは必要ですか?」

「あ、大丈夫です」

「ありがとうございました」

 

……って、完璧じゃん。他でやってたってぐらい。

ん? やってたな。

と、振り返ると、ベテランが横に来て、レジの説明をしている。

初めて聞くような顔で聴いている新人さん。

 

「……」

やべぇ大人だ。

と、浩紀は思った。

 

そして大人か……。

と思った。

 

 

 

漠然。

 

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炎上騒ぎでも起きたかのように、唐突に予約は減り、

キャンセル対応に追われている小さなレストラン。

 

今まで、忙しかった。

田舎に引っ越してきて、小さなお店を夫婦二人で始めた。

それほど忙しくなくていいから、のんびりと自分たちのペースでやっていこうと、そんな感じだった。

 

「誰も来なかったらどうする?」

「まあ、卵ぐらいしかなくても、俺がうまいものに変えてやるからさ。食うには困らないさ」

 

なんて、言っていた。

店主は、特に有名な料理人だったわけではないけれど、妻はいつもとても褒めてくれた。

最初はあまりお客は来なかったけれど、それなりに楽しかった。

常連が出来、SNSとかでも紹介されるようになり、

ローカルテレビが取材に来たりもした。

 

そして気が付けば、予約でいっぱいになり、毎日忙しかった。

妻は、接客に追われ、とてもよく働いてくれたけれど、疲れているのは見て分かった。

 

「予約の数減らそうか?」

「でも、みんなあなたの料理を気に入ってくれる人ばかりだから。私は大丈夫だから」

 

二人の会話は減り、疲れは溜まり、そして不器用だった。

妻を幸せにしたい店主と、

多くの人に店主を認めてもらいたい妻。

 

店主は何かしらの違和感を感じ、潮時を考え始めていたころ、

 

世界の流れが一気に変わった。

 

ミサイルが落ち、原発が壊れ、人々が外へ出ることを控えたのだ。

 

その日から、キャンセル対応と、予約しても来ないお客ばかり続いた。

だけど店主は、少しホッとしていた。

 

二人は、最後の予約客をもてなし終えると、店を閉め、

しばらく休業することに決めた。

 

「あなたのせいじゃないから」と、妻は言った。

店主は、

「いや、俺のせいさ」と言った。

 

順調にいくこと、それに対し、責任をとろうとすること、そこから少しずつ、何かがズレていくことに気がついているのだけれど、その違和感に対して、うまく説明がつけられないまま、時間が流れていくこと。漠然とした怯えがあり、どこかで決断をしないとなと思いつつ、流されて行くこと。

ある種のうまくいかない時は、ある種の弱さを助けることもある。

 

店主は、その日の夜オムレツを作り、二人、ワインで乾杯した。

簡単な打ち上げ。

 

「お疲れ様」

「お疲れ様」

 

オムレツを食べ、妻が笑った。

「美味しいね」

 

店主は少しホッとした。

 

ここから、と密かに思っていた。